うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

これ以上企業を甘やかしてどうする

世の中には、雇用の流動化とか柔軟な働き方といった言葉を隠れ蓑にして、雇用の不安定化や労働条件の切り下げを目論む妄言が溢れている。

 

『40歳定年制に賛成』(10/26 日経新聞 大機小機 執筆者:希)

https://r.nikkei.com/article/DGKKZO36942490V21C18A0EN2000?unlock=1&s=1

「(略)実は人手不足が深刻化する中、高齢者の就業率は既に急速に高まりつつある。(略)だが、筆者の懸念はここで定年年齢の70歳への引き上げといった安易な選択がなされることだ。

筆者が社会に出た頃、企業の定年は55歳が普通だったが、今では10年伸びた。この間、企業のビジネスモデルは著しく不安定化したから、学卒後40年の雇用保障は極めて厳しい。企業収益が史上最高でも賃金がさっぱり上がらない背景には、この日本的雇用に特有の負担の重さがあるのだと思う。70歳定年にすれば、事態はさらに悪化するに違いない。

むしろこの際、東大の柳川範之教授が提唱する40歳定年制を真剣に検討すべきではないか。

入社後20年程度で退職するならば、企業は今より高い初任給を払えるだろうから、外資系に比べて日本企業の魅力を高められる(略)」

 

仮に40歳から満足のいく額の年金が全国民に支給されるなら、筆者も希氏の意見に賛成するが、彼の主張はそんな甘いものではなく、企業がより人件費を抑制しやすくなるよう定年を40歳に引き下げ、雇用負担を減らそうというのだから、てんでお話にならない。

 

所得確保のための職探しは労働者へ押し付け、企業が好きな時に従業員を解雇でき、賃金カーブが大きく膨らむ前に中堅・ベテラン社員を放逐できるという、まことに自分勝手な暴論だ。

 

平成不況につき合わされて30年近くになるが、その間、家計所得は平成9年をピークに減り続けているのに対して、企業(特に大企業)は、低金利・非正規雇用による人件費圧縮・法人税率引下げ・各種減税制度・生産拠点の海外移転・新規雇用の抑制等々、行政サイドから無数の恩恵や施しを受けてきた。

 

その結果、上場企業の純利益や内部留保、株主配当額が史上最高額に達する一方で、労働分配率は史上最低水準に落ち込み、人件費(=労働者の取り分)は平成初頭以降、ほぼ一貫して横這いのままという体たらくだ。

【参照先】http://www.murc.jp/thinktank/economy/overall/japan_reg/watch_1801.pdf

 

一口に平成不況と言っても、その痛みをダイレクトに蒙ってきたのは、ほとんど家計(=労働者)と中小零細企業であり、大企業は納入コストと人件費カットを元手にたっぷりと収益を稼いできたという構図なのだ。

 

30年も甘やかされ、我が儘のし放題を黙認され続けてきた企業にこれ以上甘い顔をする必要などない。

それどころか、いいだけ溜め込んできた収益や内部留保を吐き出させ、人件費UPを強く要求すべきだし、社会問題化している長時間労働の解消や有給取得の常識化、社内手続きの簡素化といった問題の具体的解決策を早急に提出させ、実行を約束させるべきだ。

 

大機小機のコラムを書いた希氏は、40歳定年制を推奨するにあたり、「20歳前後までに得た知識・能力だけで、その後の50年を生きていくのは図々しい」、「40歳定年時に得た退職金を使い再就職のためのジョブトレーニングを受けろ」ととぼけたことを抜かしている。

 

現実の企業運営を知らぬド素人の夢想は止まることを知らない。

 

仮に定年を40歳とすると、雇用はかなり過激に流動化する。

定年の大幅な引き下げは、就職に対する社会全体の意識を大きく変えることになるため、恐らく定年前に止める者が続出し、企業の平均勤続年数(平均13年前後)は“低賃金・高ノルマ・無休暇”のブラック企業並みに2~3年くらいまで激減する可能性がある。

 

従業員の入れ替わりの激しさは、企業にとってもデメリットが多い。

 

離職した従業員の補充コストもバカにできないし、頻繁に人材が入れ替わると、社内の業務履行ノウハウや人脈・技術の承継などが上手く行かず、有形無形の財産が毎年消滅することになる。

結局、経営層は、ノウハウや人脈の継承といった事務管理に維持に多大なコストと時間を割かねばならず、肝心の収益スキームの確立を疎かにせざるを得ない。

 

雇用の流動化は経営の形骸化に直結する。

なぜなら、流動化は雇用の軽薄化を促し、本来雇用によって得られるはずの所得や社会的地位が蔑ろにされるため、労働者は雇用主に対して良質な労働の提供を拒み、労働の質が低下を余儀なくされるからだ。

 

日本企業の業務運営は、素人が考えるほど簡単にシステム化できるものではなく、希氏が提唱するジョブ型雇用(専門スキルを活かした職務に特化した雇用体系)の導入など夢また夢といったところだ。

 

一般的に、そこいらのサラリーマンがやっている仕事なんて、個々の業務を切り取っても特段高い専門性を必要としないものばかりだ。

根回しや社内政治の専門家、見積・請求業務のプロならいるかもしれないが、わざわざ大学教育から育成するような業務なんてほとんど存在しない。

 

欧米諸国の企業だって、日本人が思うほどシステマティックなものでもあるまいし、ちょっとでも守備範囲外の仕事を「Not my business(# ゚Д゚)」と断っていたら、業務が回らなくなる。

 

企業収益が史上最高でも賃金がさっぱり上がらない背景は、長期雇用を基本とする日本的雇用のせいではなく、単に企業経営者の我が儘と欲求を放置していただけに過ぎない。

 

平成不況の最中にさんざん甘やかされてきた企業に、これ以上好き放題させる必要はない。

 

政府も、年金支給開始年齢を引き下げる気がないのなら、それに合わせて定年を引き上げさせねばならないし、サービス残業パワハラ紛いのノルマ強要などといった違法労働を早急に是正させるよう、企業に汗をかかせるべきだ。