うずらのブログ

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AIは弱い者を助けない

『ぐっちー「AIで銀行員はもう不要? 日米の融資スタイルから見る実情」』(8/12 AERA dot.)

https://dot.asahi.com/aera/2018080900015.html

 

ぐっちー氏のコラムの内容は、上記URLから参照いただくとして、彼は、友人の社長が10年来取引のあるメインバンクから3億円の融資を受けた際のメインバンクの対応を例に挙げて、手続き至上主義の日本の銀行員の仕事は、近い将来AIに取って代わられると主張している。

 

ぐっしー氏曰く、友人の社長のメインバンクは、融資決定まで2週間も掛かった挙句、契約書の捺印の濃さにイチャモンをつけて契約行為に1時間も費やし、正式な融資実行までさらに1週間も要したそうで、これが日本の融資現場の通常風景だと揶揄している。

 

一方、自身がアメリカでほぼ同額の融資を受けた際には、申し込みから12時間後にOKの通知を受け、翌日には振り込まれていましたと自慢げに語り、「日本の一流金融機関ではこういった書類の取り扱い業務を正確に、かつ素早くこなせる能力が尊ばれ、採用でも圧倒的に有利でした。しかし、米国の例では、実はそういう業務はすでにAIが人に取って代わっているのです。そんなことが早く正確にできても仕方ない時代は、すでに来ているのです」と断定し、日本の金融機関のやり方は時代遅れだと非難する。

 

この超低金利下で国内金融機関が悲鳴を上げているのは事実だが、その真因は、収益を無視した金融機関同士の不毛な金利ダンピング合戦にあり、AI導入や契約手続き云々はまったく関係ない。

 

正直言って、ぐっちー氏がコラムで挙げた例え話には違和感や無理が多すぎる。

 

まず、彼の友人がメインバンクから借りようとした3億円もの資金の使い道がよく解らない。

運転資金なのか、設備投資資金なのか、はたまたM&A資金なのか、説明が足りない。

 

いずれにしろ、一部上場の大企業ならともかく、3億円もの融資を半日で承諾するほど銀行は甘くない。

 

筆者も銀行を退職して随分になるが、企業規模や支店規模により融資取扱高の上限額、つまり、営業店長や支店長の責任で決裁できる融資の上限額は異なるものの、3億円もの金額を即日決済できるケースは極めて稀だ。

 

件の社長はメインバンクと10年来の付き合いがあるのに、2週間も待たされたと憤慨しているようだが、業歴の古い銀行にしてみれば、10年なんて、まだまだ新参者の類いに過ぎず、3億円をポンッと貸せるほど信用ある相手とは見なしていない。

 

街金でもあるまいに、銀行が、3億円の資金使途を問い、事業計画の内容を精査し、資金繰りや収支計画を審査するとなれば2週間くらい掛かるのは当たり前だ。

 

ぐっちー氏は、融資決定後の契約に1時間も掛かった云々と愚痴を垂れているが、それは事を大袈裟に魅せるためのフィクションだろう。

 

契約が保証契約の増額なのか、担保付きの抵当権設定に伴う金銭消費貸借契約なのか判らぬが、そんなものにサインと捺印するのに1時間も掛かるはずがない。

時間が掛かったとすれば、社長の長話でも聞かされた所為としか思えない。

 

また、契約書を持ち帰った後に正式な稟議云々も現場のオペレーションを知らぬ大嘘で、通常は契約とほぼ同時に融資が実行されるはずだ。

正式な稟議(決裁)を待たずに契約するなど普通は考えられない。

 

ついでに、ぐっちー氏がアメリカで融資を受けた際の自慢話にも突っ込んでおくが、個人名義なのか、事務所名義なのか判らぬが、何ゆえアメリカで3億円(友人社長とほぼ同額)ものカネが必要だったのか?

昨年のアメリカの貸出金利は4%を超えており、3億円も借りてしまうと、利払いだけで年間1,200万円も吹っ飛んでしまうのに、わざわざ金利の高いアメリカで資金調達した理由は何だったのか?

 

ぐっちー氏は、「日本の一流金融機関ではこういった書類の取り扱い業務を正確に、かつ素早くこなせる能力が尊ばれ、採用でも圧倒的に有利でした」と、銀行の現場をよく知らず世間一般的な妄想を元に批判しているが、書類の取り扱いの正確性なんて、新人行員であっても出来て当たり前の最低ラインに過ぎず、こんなものが銀行員の評価基準になっていると信じる方がどうかしている。

銀行の人事考課で、正確かつスピーディーな事務処理はルーティンレベルの扱いでしかなく、業績評価をいかにクリアできるかが評価の決め手になる。

 

彼のように、銀行の融資業務がAIに取って代わられると見る向きが多く、実際、人件費カットを狙い、銀行経営層がAI導入に踏み切る時が来るだろう。

 

だが、AIによる冷酷な融資判断の被害を真っ先に蒙るのは、いい加減な決算処理が横行している中小・零細企業なのだ。

 

現在、フィンテック技術を応用したAIによる融資審査システムの概要は、税務申告書類や口座の入出金記録、給料や社会保険料などの支払い実績など企業の安定性が判断できる情報や、経済指標などのデータをAIが学習し、融資の際の金利や金額水準を弾き出す仕組みだが、AIは社長の人柄や企業の技術力、地域における存在感云々といった“特殊要因”を考慮しないから、これまでの担当者のように甘い顔はしてくれない。

 

売掛金に内包される焦付き債権や棚卸資産に隠された不良在庫、価値のないゴルフ会員権や保証金も見逃さないし、役員借入も実質的資本金ではなく外部負債として冷断される。

 

融資担当者が長年の取引に免じて目を瞑ってくれた実質赤字は、感情を持たず忖度の気持ちもないAIによって白日の下に晒され、多くの中小・零細企業は、融資ストップか、融資金利の跳ね上がり、あるいは、追加担保や追加保証を宣告されるだろう。

 

世間にはAI導入により融資が容易かつスピーディーになると期待する者も多いが、単なる妄想に過ぎず、実際は目を剥くような高金利を突き付けられ、空気を読まないAIの峻厳たる姿勢に唖然とさせられる。

 

『話題の「AI融資」、いくらまで借りられるのか実際に算定してみた』(ビジネス+IT)

https://www.sbbit.jp/article/cont1/34187

みずほ銀行ソフトバンクが出資する「Jスコア」がAI(人工知能)を使った融資サービスに乗り出した。審査にAIが活用されており、必要な情報を入力することで融資可能額や金利を自動的に算出する。しかも積極的に自身の情報を提供すれば融資可能額などがアップするという特典もある。(略)

生年月日やおおまかな年収、勤務形態(正社員、非正規、自営など)、業種や職種、入社時期など約20の質問に回答すると、基本スコアが得られる。中堅企業の正社員で勤続20年、子供一人、持ち家なしという条件で最初に提示されたスコアは674点で、この場合には約10%の金利で120万円まで融資を受けることができるという。(略)

追加情報を加えたところ、スコアは上昇し700を超えた。当初の段階と比較して金利は9.4%に引き下げられ、融資限度額も150万円に増えていた。(略)」

 

この記事を書いたライターは、AIによるスコアリング審査で120万円借りられたと大はしゃぎしているが、アホか、金利をよく見てみろ、とどついてやりたい。

“10%だ、追加情報を入れると9.4%に下がった”と喜んでいるが、この超低金利時代に10%も金利を払わされるバカがどこにいるのか?

これなら、アコムのカードローンと何ら変わらないではないか?

 

だいたい、融資審査の場で「いくらまで借りられるか?(=できるだけ多く借りたい)」という言葉は最大のタブーだ。

なぜなら、限度額一杯まで借りたいという言葉を吐く者は、返済する気もなく、能力もない要注意人物だと見るのが融資現場の常識だから…

 

ここ数年、銀行の貸出DIは良好な水準を保ち続けている、つまり、銀行はカネを貸したがっているのに上手く借りられないという企業は、単に事業スキームが破綻し、事業の将来性がなく、信頼を勝ち得ていないだけの話で、AIに審査を頼んでも結果は同じことだ。

 

AIが弱き者を切り捨てるスピードは、人間より遥かに速いのだから…