うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

大甘採点が成長の芽を摘み取る

『安倍政権5年間の通信簿は雇用の確保で70点の及第点だ』(DIAMOND On-line 高橋洋一/嘉悦大学教授)
http://diamond.jp/articles/-/154603

第二次安倍政権も今月で六年目に突入したわけだが、その成果を巡り、安倍応援団のひとりであるリフレ派の高橋洋一氏から援護射撃があった。

高橋氏の主張を要約すると、次の二点になる。

1.自分は、金融緩和をすれば、円安、株高、雇用増になると予測していた。
金融緩和は円を相対的に増やし、希少性がなくなるので円安になる。円安になると、輸出製造業が有利になって株価が上がる。企業収益も増すので、派生需要である労働需要が増えて雇用が良くなる。これこそがアベノミクスの成果だ。

2.アベノミクスに点数をつけるとすれば、100点満点としてそのうち、雇用60点、所得40点を満点として評価する。
雇用では失業率の下限となる構造失業率2%台半ばを満点の60点とするので、今のところ55点。
所得ではGDPの動向で評価する。2014年の消費増税の前までは良かったが、その後は消費が伸び悩んだので40点満点で15点。
それでも合計70点なので、まあまあの合格点だ。

経済論壇におけるアベノミクスへの評価は、次の四つに大別される。
①安倍政権5年間の生ぬるい成果を全力で評価する勢力(自称保守派、リフレ派、構造改革派)
②安倍政権の金融緩和政策が財政規律の弛みを助長すると批判する勢力(緊縮財政派)
③安倍政権は公共事業費や防衛費を増やし過ぎ(?)だ、原発推進派だと批判する勢力(love&peaceな人々)
④安倍政権の経済政策は緊縮財政・規制緩和・構造改悪的な色彩が強く、恒常的不況や国力低下につながると批判する勢力(機能的財政論者、積極財政派)

高橋氏は、上記①に該当する熱心な安倍信者の代表格だが、彼をして5年間にも亘るアベノミクスの評価が「70点」、「及第点」としか言えない辺りに、アベノミクスの限界が透けて見える。

因みに、筆者の採点だと所得60点・雇用40点の配点とし、所得15点・雇用10点の合計25点で落第といったところか。

まず、金融緩和政策と雇用増との関係だが、昨今の人手不足は、若年層の人口減少と団塊世代やそれに続く世代が定年を迎えたことによる人口構造が惹き起こした“自然現象”であり、安倍首相でなくとも、経済をイーブンペースに維持しておきさえすれば誰にでも達成できたもので、これを金融緩和政策の手柄ヅラするのは相当無理がある。

高橋氏の持論は、「金融緩和による円の希薄化→円安→輸出増→株高→製造業を中心とする雇用増」というものだが、円安による輸出促進効果や海外売上の利益嵩増し効果はあるかもしれないが、エネルギーや食糧、鉱物資源などの輸入コストの大幅上昇による効果相殺もあり、国内経済にとって大きな起爆剤となったかといえば、はなはだ疑問だ。

現状程度の円ドル為替水準なら2008~2009年頃にも確認されていたし、例えば1998年や2001年辺りだと1㌦=130~140円と今より遥かに円安だったが、コラムの中で高橋氏が得意顔で紹介した就業者数のグラフは明らかに下降トレンドを辿っており、「円安=就業者増」というのは単なる思い込みでしかない。

また、円安を起因とする製造業の雇用増加説についても、確かに、2017年11月の労働力調査でも、製造業の就業者数は1,049万人、前年同月比+13万人と増えてはいるが、2015年以降の推移をグラフ化するとほぼ横ばいで、2002年頃には1,200万人を超え、2016年1月頃に1,100万人近くいたことを思えば、ここ数カ月の就業者数増加トレンドは、瞬間風速的な誤差の範囲内といって差し支えない。

次に、昨年11月時点で2.7%に下がった失業率をどう評価するかだが、失業率の分子となる完全失業者数は178万人と以前より大幅に減っているが、非労働力人口のうち就職希望者数(=潜在的失業者)は、一時期より減ったとはいえ2016年時点で380万人余りもおり、こうした人材の活用がまったくなされていない。

また、就業者数の推移を男女別に5年前と比較すると、2012年11月:男3,784万人・女2,784万人→2017年11月:男3,772万人・女2,958万人と、この間の162万人の就業者増は女性の増加によるものだ。
女性就業者増加の内訳はといえば、45~54歳+105万人、65歳以上+87万人と、いわゆる女性の社会進出ではなく、旦那の稼ぎが減ったり、年金の目減りにより仕方なくパートに出ざるを得なかった女性が増えただけであるのが判る。

数百万人もの潜在的失業者を放置したまま、且つ、中高年女性の嫌々パートが増えただけの雇用状態に55点/60点もの高評価を与える高橋氏の節穴ぶりには失笑を禁じ得ない。

最後に国民・勤労者の所得状況についての考察だが、高橋氏は消費税導入と消費の伸び悩みを理由に15点/40点と、こちらは辛目の評価だ。

2016年の民間平均年収は421万円で、ピークの467万円(1997年)を10%も下回る惨状で、安倍政権スタート時との比較でも4年間でたったの3%しか増えていない。

安倍政権が経団連など経営サイドに賃上げ要請を行う姿勢は評価すべきだが、現状では家計の名目賃金の伸びがあまりにも小さ過ぎ、日用品や食料品、エネルギー価格の上昇や社保負担増加分を賄えず、実質雇用者報酬の伸びは2017年に入ってから明らかに鈍化している。

本来なら、経営サイドが労働分配率引き上げに積極的になるよう、大規模な財政支出実体経済を刺激し消費・投資マインドを過熱させるべきだが、肝心の政権・与党はといえば、歳出改革だの、聖域なき社会保障費削減だのと、真逆の緊縮思考うつつを抜かし、2019年10月には政権奪取後2度目の消費増税を目指すなど、アクセルを吹かすよりもブレーキを強く踏み込む政策ばかりが目につく。

橋本行革や小泉構造改悪以来、20年にもわたり成長が止まった我が国の経済を立て直すには、成長に毛の生えたような1~2%の成長率ではまったく話にならない。
我が国の低迷を尻目に成長を遂げた他国を追いかけ、国民の成長マインドを取り戻すには、成長と分配に役立ちそうな政策をフルに動員して名目で8~10%近い成長を目指すくらいの気概が必要なのだ。

アベノミクスによって最悪の時期に歯止めが掛かったとは思うが、あくまで下落を止めた程度でしかなく、ベストやベターなパフォーマンスとまで評価することはできない。

悪夢の民主党時代よりマシと擁護する声もあるが、比較の対象があまりにも酷過ぎる。
経済政策の評価は相対評価ではなく絶対評価で下すべきだろう。

安倍首相とて、日本の長期不況の引き鉄を引いた小泉政権時代から政権や与党の要職にあったのだから、その間の経済停滞の責任から逃れられると思ったら大間違いだ。

アベノミクスの成果とやらが一年間のパフォーマンスならまだしも、5年もの歳月を費やしてのものだから、筆者には正直言って物足りないとしか思えない。