うずらのブログ

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珍説貿易論

以前のエントリー(「輸入最強論を騙る珍種」http://ameblo.jp/kobuta1205/entry-12223750875.html)で「輸入が増えれば、輸出も増える(=仕入れを増やせば、売上も増える)」という呆れた妄想をご紹介したが、世の中には、まだまだ珍説・奇説の類がゴロゴロ転がっている。

例えば、こんなのがある。

【珍説】『輸出・輸入絶対相関説』
輸出の裏には必ず輸入があり、輸入の裏には必ず輸出があるから、輸出が伸びれば輸入も伸びるし、輸出が減れば輸入も減る。
輸出と輸入がセットということは、輸出拡大と輸入拡大もセットになる。

【奇説】『産業保護による輸出阻害説』
輸出を伸ばし輸入を抑えるのは、理論上不可能。
「輸出をしない」という選択をすれば、「輸入をしない」ということと同じ。
つまり、自給自足せざるを得ず,経済規模は縮小する。「輸出を伸ばし、輸入を抑える」という幼稚産業保護に基づく政策は実現できない。

【痴説】『比較劣位産業労働力供給機関説』
輸出拡大には、生産量拡大が必要。生産量拡大には、労働力が必要。労働力は比較劣位産業からしか持ってこられない。
つまり、「比較優位な産業に特化しなければ輸出は成り立たない」=「輸入をしなければならない」ということになる。


まず、『輸出・輸入絶対相関説』なる珍説について取り上げる。

日本の輸出入実績を見ると、確かに、大まかに言えば、輸出額と輸入額との間には“ユルい”相関関係が認められる。

特に、外国から原材料や半製品を輸入し、自国で加工して製品化して輸出する加工貿易型の国では、輸出品(主として工業製品のイメージ)を造るに当たり部品の類を大量に輸入せねばならないから、「輸出UP=輸入UP」という観念が生まれやすい。

だが、こうした固定観念は必ずしも事実を正確には捉えていない。

例えば、
1992年:輸出額+1.5%、輸入額▲7.4%
2001年:輸出額▲5.2%、輸入額+3.6%
2002年:輸出額+6.3%、輸入額▲0.5%
2011年:輸出額▲2.8%、輸入額+12.1%
2012年:輸出額▲2.8%、輸入額+3.7%
といった具合に相関から外れる例も多々ある。

国際貿易においては、為替や原油価格の変動も加味されるため、当然こうしたイレギュラーも起き得る。

特に、日本の場合、輸入額に占める「鉱物性燃料」の割合が21%~34%と変動幅・割合ともに大きいこと、並びに、ほぼ輸入超過で価格変動幅の大きい「食料品」が輸入額に占める割合も7~9%程度あることから、輸入額全体の変動幅が大きく、輸出額の動きと素直にリンクしないことが多い。

また、両者に正の相関があると言っても、互いの増加率には大きな差異があり、「輸出UP=輸入UP」と決めつけるのは乱暴すぎる。

この珍種を述べた論者は、日本が工業品の加工貿易だけに特化した国という前提でモノを騙っているようだ。

しかし、例えば、2015年の統計を見ると、
「一般機械」:輸出額14.1兆円(▲3.1%)⇔輸入額7.0兆円(+2.7%)
「化学製品」:輸出額7.6兆円(▲3.4%)⇔輸入額7.8兆円(+11.4%)
と真逆の動きをしている工業品もある。

恐らく為替変動の影響によるものだろうが、珍説に根拠が無いことの立証材料くらいにはなるだろう。


次に、『産業保護による輸出阻害説』なる奇説について間違いを指摘しておく。

この奇説は、
「輸出の裏には必ず輸入があり、輸入の裏には必ず輸出がある」

「輸出を伸ばし輸入を抑えるのは、理論上不可能」
という風に論理展開を試みるが、これは、日本がたまたま鉱物燃料の輸入大国であるがゆえに当てはまることで、農産物や原油・ガスなどの産出国で輸送機械も製造できるような国には当てはまらない。

さらに言えば、、近代化以前の帆船でモノを輸送していた時代なら、自国の陶磁器や織物などを一方的に輸出することも不可能ではないし、インバウンド観光やアニメなどのソフトメディアサービスの輸出に関しては、輸入額との相関を説明できまい。

また、「輸出を伸ばし輸入を抑えるのは、理論上不可能」というのはまったく意味不明だ。

自国の生産品(工業品や農産品、サービス品)の付加価値を高めることができれば、(為替変動を考慮しないとすれば)材料費などの製造コストと最終販売価格との差異を拡大させることが可能(=要は、“高く売れる”ということ)で、結果的に、輸入額の伸びを抑えつつ、輸出額を拡大させることは十分に可能、というより、国内メーカーは、常にそれを目指して企業活動に励んでいるはずではないか?

この奇説が最も罪深いのは、「「輸出を伸ばし、輸入を抑える」という幼稚産業保護に基づく政策は実現できない」と妄言を撒き散らしていることだろう。

「生産力拡大」、「研究開発力・技術力向上」、「産業保護育成」は国の産業政策の三本柱である。
なぜなら、それによって、国富の拡大強化・人材育成・雇用の維持というサイクルを好循環させることができるからだ。

かの愚者は、幼稚産業保護を嫌っているようだが、彼好みの比較優位産業(電気産業・自動車産業などの製造業)に従事する就業者の割合は16%でしかなく、これ以外の比較劣位産業を保護しないということは、全就業者の8割以上を失業の危機に晒してもよい、ということになる。

まさに、世間知らずの幼稚なバカの吐く暴論でしかない。


最後に、『比較劣位産業労働力供給機関説』なる痴説について述べる。

痴人曰く、「輸出拡大には、生産量拡大が必要。生産量拡大には、労働力が必要。労働力は比較劣位産業からしか持ってこられない」そうだが、彼が国内きっての比較優位産業に指定する「製造業」は、ここ15年の間に就業者数を167万人も減らしており、全就業者数に占める割合も19.0%→16.2%に縮小している。

比較劣位産業から人を持ってくるどころか、世界的に高いスキルとノウハウを有する有能な人材を減らすに任せている。

生産力拡大には労働力が必要だそうだが、実際には、製造業は労働力を減らしつつ製品出荷額を増やしていることからも、この痴説のいい加減さが覗える。

ちなみに、痴人の大好きな安倍政権は、農業分野の輸出振興を目玉政策の一つに抱えており、かの痴説のとおりなら、「農業の輸出拡大には、生産量拡大が必要。生産量拡大には、労働力が必要。労働力は比較劣位産業からしか持ってこられないから、最近落ち目のシャープ・東芝マクドナルド辺りから農業への転職大移動が起こるはず」ということになろう。