うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

結論は、いつも「コストカット」

日本経済新聞社と日本経済研究センターが10月24日に都内で開催した景気討論会の概要が、25日の日経新聞に掲載されていた。

出席者は、林田英治氏(JFEホールディングス社長)、門間一夫氏(みずは総合研究所エグゼクティブエコノミスト)、山田久氏(日本総合研究所チーフエコノミスト)、岩田一政氏(日本経済研究センター理事長)の4名で、個人消費低迷や働き方改革、生産性向上などを中心に議論が交わされた。(というより、持論が披露された、という方が適切か…)

緊縮主義&構造改革主義色の強い出席者の顔ぶれを見た瞬間に、その内容もおおよそ見当がつこうというものだが、次のとおり、評価できる発言もいくつか見受けられた。

『賃金が先か、生産性が先か。あえて言うが賃金が先だ。』(山田氏)

クリントン氏とトランプ氏がここまで接戦になったことが大きな出来事だ。市場経済重視の負の側面が明らかになってきた。グローバル化や技術革新の恩恵が均等に行き渡っていない。格差拡大と中間層の不満が、米欧の政治の混迷を生み出している。』(門間氏)

『保育士の月給を最大5割増やし、30万円くらいに引き上げる。それくらいインパクトがあれば担い手が増える。』、『子育て支援への財政支出をもっと増やすべきだ。』(門間氏)

日経主催の討論会と言えば、“緊縮・改革・規制緩和”の3点セット連呼とグローバル化礼賛と相場が決まっており、そこに呼ばれる弁士たちも、その大原則を喜々として踏襲するものだが、そんな彼らが、嫌々ながら、労働者(消費者)への分配率引き上げや雇用の質の改善、野放図な市場主義経済の是正に触れねばならぬほど、事態は逼迫しているのかもしれない。

8月の家計調査では、2人以上世帯の消費支出が1世帯あたり27万6338円と、前年同月比で実質4.6%減少(6カ月連続減少)し、勤労者世帯の1世帯あたり消費支出も30万1442円と、同4.5%減少(4カ月連続減少)となり、家計の財布は早くも“厳冬期”を迎えている。

恐らく、9月の実績も対前年同月比マイナスを避けられまい。

こうした家計の慎重な行動は、消費の現場にも既に波及している。

日本チェーンストア協会が発表した9月の全国売上高(既存店ベース)は、スーパーで1兆87億円と前年同月比3.2%減の2カ月連続マイナス、コンビニエンスストアで8010億円と同0.01%減の4カ月ぶりのマイナス、百貨店で4233億円と同5%減の7カ月連続マイナスと、酷い有り様だ。

特に、食料品1.3%減、衣料品11.3%減、住関連4.1%減と、消費の3本柱である「衣・食・住」が揃ってダウンするなど事態は深刻だ。

結果を受けて、同協会では、(台風や猛暑を言い訳にしつつ…)「実質賃金は上昇していても、消費者心理の改善にはつながっていない」とコメントしている。

小売店の売上減少の真因は、天候や気温といった外的要因ではなく、消費者の所得低迷による消費意欲の減退や抑制という内的要因にある、というのが極めてまともな考え方だろう。

端的に言うなら、家計の賃金水準が名目・実質ともに低すぎることが、消費低迷の真犯人であり、デフレ脱却を邪魔する負の引力とでも言うべきか。

不景気やデフレの真因は需要不足であり、その根源は家計所得の低迷にある、という原理を理解していれば、解決策を導き出すのは容易なはずだ。

しかし、これが、緊縮&構造改革主義者の手に掛かると、『1+1がマイナス2』になってしまうから話がややこしくなる。

冒頭の討論会でも、事実誤認も甚だしい分析や事態を悪化させるだけの提言が相次ぎ、イライラが増すばかりだ。

『日本経済の実力を示す潜在成長率はゼロ%台で低迷しており、実力との対比では絶好調といえるのではないか。 (中略) 財政政策や金融政策の効果は限界があり、構造改革で成長の天井を押し上げるしかない。』(門間氏)

『賃上げは労働生産性の向上を上回ることはできない。これは大原則だ。』(林田氏)

『正社員のあり方が問題だ。日本は大手中心に長期雇用で守られている代わりに、賃金が上がらない。日本的な雇用慣行は否定しないが、生産性の向上と賃上げの好循環が実現できる労働市場改革が重要だ。』(山田氏)

『政府は移民政策についても議論すべきだ。何年くらいまでに何万人、どういう条件なら受け入れるか工程表を示す必要がある。』(岩田氏)

日本のように優れた供給能力を有する国では、潜在成長率の多寡は需要量によって十分にコントロールできるはずで、、門間氏のように、いまの日本の実力を端からゼロ%台と決めつけること自体、成長放棄論とも言える可笑しな考え方だろう。

また、成長の天井を押し上げる得るのは積極的な財政金融政策であり、構造改革なんて、内需減退や雇用破壊を誘発する有害な毒薬でしかない。

供給力の劣る発展途上国型経済なら、構造改革とやらが成長に寄与するかもしれないが、日本のように供給過剰型先進国経済には完全に当て嵌まらない。

林田氏のように、財政・金融政策に消極的な姿勢を示しながら、労働生産性向上を語るのは間尺に合わない。

賃金上昇は労働生産性向上の範囲内と主張しながら、生産性UPのために雇用の流動化や移民導入を進めて労働コストのカットに勤しむのは、明らかに論理が矛盾している。

生産性UPには付加価値の源泉たる売上UPが欠かせず、林田氏が経営するJFEスチールをはじめ民間経済主体が消費や投資に消極的である以上、公的セクターが実体経済に資金を投入するほかないのだが、財政支出を嫌う連中は、あくまで民間経済内で生産性改善を行うことに固執し、結果として賃金カットに全てシワ寄せされることになる。

また、山田氏の雇用流動化を柱とする労働市場改革論や岩田氏の移民容認論も、国内の雇用の不安定化や賃金低下にしかつながらず、家計の所得減少や雇用に関する不安感を助長し、消費者心理を一層冷え込ませ硬化させるだけに終わるだろう。

緊縮&構造改革主義者特有の“シバキ上げ思想”の根本が変わることはない。

彼らが賃上げや市場主義経済の弊害に(ちょっぴり)言及するのは、生活が苦しいと騒ぎ立てるウザったいハエを追い払うための一時的な方便でしかない。

緊縮&構造改革主義者どもの提言が、全て国内の労働コストカットに端を発しているのが何よりの証拠であり、殺虫剤や外来種のクモを受け容れて五月蠅いハエどもを駆逐したい、というのが本音なのだ。