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うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

改革主義者の願いはひとつ、"日本人の所得を下げること"

いまや賃金労働者の4割が非正規になったと言われ雇用の破壊が進んでいるが、労働現場での苦労を知らぬ連中ほど、野放図な雇用の流動化に対する危機感が極めて薄い、と言うよりも、更なる非正規化促進に拍車を掛けるような発言を繰り返している。

『「最低賃金引き上げ」でも低所得層が救われない理由(ダイヤモンドオンライン)』

(岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授])

http://diamond.jp/articles/-/97961

上記コラムで岸氏は、安倍政権の経済対策を引き合いに、『“未来への投資”を標榜しながら、働く人の将来の所得増加につながる政策が足りないということです。これでは、働く人の圧倒的多くが感じている将来不安は払拭されないのではないでしょうか』と心配顔をして見せている。

しかし、コラムを読み進めると、“正規社員を減らせ、正規社員の賃金を引き下げろ、雇用の流動化を進めろ”という本音がぶっちゃけられ、働く人の将来不安を一層煽り立てている。

今回は、当該コラムから、岸氏の主張をいくつかピックアップして、個別に誤りを指摘しておきたい。

【ポイント①】

(岸氏)『そもそも経済政策の最大の課題は、欧米と比べて低い日本経済の生産性を引き上げて潜在成長率を高めることにあります。』

日本の労働生産性が欧米に比べて低い(2014年度調査で世界21位)というレッテルは、「労働生産性GDP/(就業者数×労働時間)」なる数式を根拠とし、“生産性向上のためには、カンフル剤ではなく、改革と規制緩和が必要だ”という念仏の大合唱につながるのが、いつものパターンだ。

しかし、数式を素直に分析すれば、労働生産性を上げるには、分母を削るという選択肢はあり得ないから、分子を拡大させるより他ないことくらい、誰でも理解できるだろう。

であれば、我が国の生産性が低い要因は、GDPの停滞に求められるべきであり、日本の経済構造や労働者の質に責任転嫁すべきではない。

GDP拡大に最も効果のある栄養素(=財政政策)の摂取を頑なに拒んできたのだから、身体のキレが鈍るのも当然だ。

我が国でも欧米並みに積極的な財政政策を打ち、GDPを普通に拡大させれば、労働生産性の国際順位など瞬く間にベスト5入りできるだろう。

元々、労働生産性の算式は就業者数を分母に定めているせいで、労働に従事している者の割合が比較的高い(=働き者)の日本の生産性は低くなりがちで、若者世代の失業率が20~30%にも達し、働きもせずにブラブラしている者が多い欧米諸国と単純に比較するのは不適当だ。

【ポイント②】

(岸氏)『労働者が生産性に見合った賃金を得られるようにする、衰退産業から成長産業への雇用の移行が進むようにする、といった対応が不可欠です。』

衰退産業から成長産業への“労働者の大移動(外国移民を含む)”なんて机上の空論に過ぎない。

現実には、社内のプロジェクト異動や部署異動、業界内の転職ですら、移動先の文化に馴染めず能力を発揮できない人材がゴロゴロいるのに、産業間の民族大移動なんて大混乱を招くだけだろう。

どう考えても絶対に不可能なことを、いかにも軽く口にするから、世間知らずの素人は無責任極まりないのだ。

誰の利益にもならないバカな社会実験に熱中するよりも、適切な経済政策を施して内需を拡大させ、衰退産業を持続可能産業や成長産業へと変革を図る方が、そこで蓄積された職能スキルを活かせるし、次世代へのスキル継承もスムーズに行えるはずだ。

【ポイント③】

(岸氏)『グローバル化とデジタル化という構造変化が急速に進む中では、イノベーションの継続的な創出が不可欠となりますので、職場が同質的な人の集まりとなる終身雇用はこれらの構造変化との親和性が低いと言わざるを得ません。』

そもそも、多国間の貿易自体は太古の昔から行われており、グローバル化云々を“新たな潮流”と呼ぶこと自体が時代遅れな旧式の発想だろう。

岸氏のように、グローバル化という言葉を盾にして低賃金諸国との競争を煽り、雇用のフラット化を企むのは、内需の源泉となる先進国の家計所得の抑制につながる危険な発想である。

また、本来なら、デジタル化は作業の効率化や迅速化につながるものだが、実際の企業現場では、業務効率化というデジタル化の最大の恩恵を活かすことができずに、くだらぬ社内調整業務に振り回されて、せっかくの労働資源を上手くイノベーションに振り向けられないでいる。

岸氏は、終身雇用がイノベーションの妨げになっていると暴論を吐いているが、話は逆で、雇用の流動化こそイノベーションにとって最大の阻害要因だと言える。

その程度のことは、日本企業が取得した特許件数のうち、雇用安定性の低いベンチャー企業企業(=人材定着率が極めて低い企業)が取得した特許の割合を確認してみれば解かる。

ベンチャー企業イノベーションを発揮して特許申請を活発に行っているのなら、特許庁が、わざわざ、ベンチャー企業を対象にした特許審査請求料の軽減措置などの様々な優遇措置を講じる必要なんてないはずだが…

何よりも、ビジネスの現場で重要なのは、“イノベーションの創出よりも、イノベートされた技術やサービスをいかに売上や収益につなげることができるか”であり、雨後の竹の子みたいにアイディア出しさえすればOKと決めつけるのは、事業の本質を知らぬシロウトの発想だ。

アイディアをカネに換えて初めて事業は成立する。

イノベーションをお金に変える(=B/Sの「研究開発費」をP/Lの「売上高」に換える)のが最も難しいポイントであり、それを成し得るには企画・製造・営業・管理など各部門の垣根を越えたチームワークが不可欠で、雇用が流動化されて、自分の職務経歴に箔付けすることにしか興味のない外人部隊の寄せ集めばかりの企業には不可能だろう。

【ポイント④】

(岸氏)『正しい意味での同一労働同一賃金を実現するには、正規雇用についての解雇ルールを明確化し、生産性の低い正規雇用者の賃金を引き下げることが不可欠です。』

正規雇用者の賃金引き下げ」、岸氏をはじめ改革絶対主義者の連中が言いたいことはコレに尽きる。

彼が大好きな“同一労働同一賃金や働き方改革、雇用流動化、女性が輝く社会、ダイバーシティ、外国人材の活用”なるキーワードは、すべて労務コスト削減を目的とする発想が源流になっていることに注意したい。

だが、正規雇用者の生産性に文句をつける前に、マクドナルドやベネッセといった名だたる大企業の財務を見事に崩壊させた原田泳幸氏のような自称プロ経営者の経営能力や生産性を、真っ先に問うべきだ。

正規雇用者の賃金引き下げは、労働の高付加価値化に対するインセンティブや非正規雇用者から正規雇用者へのステップアップ意欲を確実に削ぐだけに終わるだろう。

【ポイント⑤】

(岸氏)『低賃金で働く人の収入の増加に向けて、職業訓練の制度を進化させることが不可欠なはずです。』

岸氏の発言は、職業訓練云々に託けて、パソナ・テンプスタッフのようないかがわしい派遣会社への利益誘導を図ろうとする意図が窺える。

筆者は知り合いから、アメリカの一部レストランでは、入店案内とオーダー係が別々、飲み物と食べ物のオーダー係が別々になっているところがある、と聞いたことがある。

これに対して日本の食堂やファミレスでは、バイトやパート人材が、入店受付から、オーダー、配膳、会計、清掃まで一貫処理する多能工化が発達するなど、OJTを通じた高度な職業訓練が十二分に機能しており、外部機関による訓練など意味がない。

こうした高い職能スキルを有する人材を低賃金で扱き使う業界の慣習や体質こそが問題なのであり、職業訓練のように余計な屋上屋を架そうとするのは、都合のよい利益誘導か、単なる問題のすり替えだろう。

経済学者の連中は、労働条件の劣化を企む暇があるのなら、他の先進諸国と比較して著しく立ち遅れている経済成長や国民所得の向上を実現させるための具体的な方策を示すべきで、それすらできない役立たず且つ生産性の低い学者こそ、コストの安い東南アジア辺りの学者と交替させるか、率先して職業訓練を受けさせるべきだ。