うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

改革信者が夢見る「勝者だけが存在する社会」

今朝の日経新聞に「ニュース複眼~アベノミクス何をふかすか~」という特集記事が掲載されていた。

記事の構成は、10~20兆円規模(真水の金額はかなり小さくなるようだが…)とも言われる安倍政権の経済対策に対して各界の識者から提言するという形を取っており、三越伊勢丹HD 大西社長、中前国際経済研究所 中前代表、イー・ウーマン 佐々木社長、テンプHD 水田社長の4名のインタビューが載っている。

今回は、このうち大西氏と中前氏の意見を元に、世に蔓延る妄言のバカバカしさを指摘しておきたい。

まず、大西氏の主張は次のとおりだ。

①消費を支える中間層の動きが鈍く消費動向は低調だが、もはや今の状態が普通だと思うべき。

②国の財政問題と社会保障制度の将来図を示さぬ限り、将来不安を抱える若者世代の消費は動かない。

少子高齢化が進む中で、外国人労働者の受入れは不可避。既にコンビニは外国人労働者に支えられている。

彼の言いたいことは、「成長の諦観・社会保障制度のダウンサイジング・移民促進による国内労働単価の引下げ容認」の3点だが、それらは何れも家計所得の漸減に直結するものであり、一般消費者を相手に商売をする百貨店の経営者として完全に失格だろう。

日本百貨店協会が発表した6月の全国百貨店売上高は、前年同月比-3.5%の4,699億円に止まり、4ヶ月連続で対前年同月比マイナスという惨状にも拘わらず、当の経営者の危機意識は極めて希薄なようだ。

百貨店協会も、売上下落の要因を、株価低迷による富裕層の購買減少(アクセサリーなど-9.2%)とインバウンドの購買単価下落(-30.2%)に加えて天候不順の影響(百貨店協会のデータで過去に天候が良好だったためしはないが…)によるものだと分析しているが、これほどの落ち込みが続くのはボリュームゾーンである中間層の消費低迷によるものと考えねばなるまい。

その点を無視して、富裕層資産効果だ(アクセサリーや宝飾品の売上は全体の6.1%程度)、訪日外国人だ(売上シェア2.8%程度)と見当違いな分析をするから、肝心の経営者自身も、メインターゲットたる中間層の財布の中身に思いが及ばないのだろう。

また、大西氏の言う「将来不安による若者の消費抑制論」も根拠のない妄想だ。

若者相手に将来不安の有無を尋ねれば、そりゃ、大概の者は“不安がある”と言うに決まっている。

現に、ソニー生命のアンケート調査によると、30歳代の未婚女性の7割近くが将来に不安があると回答している。

しかし、これが20歳代の未婚女性になると55.3%になり、40歳代では49.2%とさらに低下する。

ちなみに、未婚男性の場合、20歳代42.1%、30歳代46.3%、40歳代31.6%と意外なほど低い値になる。

また、電通総研が行った「若者まるわかり調査2015」によると、20歳代の男女に「現在不安だと思うこと」を尋ねたところ、何れの年齢・性別でも「お金」が「老後の生活」を上回るという結果であった。

つまり、若者世代がモノを買おうとする際に何より気にかかるのは、いまそこにある財布の中身であり、いちいち将来の年金とか介護のことなんか気にしていない、というごく当たり前の結果が出ただけのことだ。

もう一人の中前氏の主張は次のとおりだ。

①政府による経済対策(財政政策や金融政策)が産業の新陳代謝を阻害してきた。

②異次元緩和政策やマイナス金利政策のせいで市場から退出すべきゾンビ企業が生き残ってしまうのは全体の生産性低下を招く。

③人手不足はロボットへの置き換えによる合理化で対処すべき。

④市場原理を働かせて生産性を上げていけば2030年頃には明るい未来が来る。

中前氏は、経済対策がゾンビ企業の救済に役立っているというくらいだから、財金政策のマクロ経済に対する波及効果を(渋々)認めたことになる。

それを是とするか否かが、筆者と彼との方向性の違いなのだが、彼のように、筋肉質の優秀な企業だけが市場に残れば生産性が上がるはずだと単純化するのは、あまりにも素人っぽい発想だ。

マーケットで激烈な競争を繰り広げる企業の中で、十分な収益を獲得できる勝ち組企業が存在する以上、その収益の源泉を負担する消費者や負け組企業の存在が不可欠になる。

勝ち投手の裏側に負け投手が存在するのと同じ理屈で、市場からゾンビ企業を退出させよ、なんて威勢の良いことを吠えていると、すぐに手痛いしっぺ返しを喰らうことになる。

国内の赤字企業は7割近く(H25で68%)にもなり、それらのゾンビ企業やお荷物企業が消えてしまえば、BtoBマーケットのビッグクランチ(大収縮)は免れず、生き残った優良企業の業績も大打撃を被ることになり、国内企業の生産性低下も避けられない。

昨日まで優良企業だった大企業が次々とゾンビ企業へ転化し、周囲から、生産性低下を招くゴキブリ呼ばわりされることになるだろう。

人手不足をロボット化で解消しようなんていうのも、アニメの見過ぎで夢と現実との区別がつかない中学生による労働コストを削減したいだけのケチくさい発想と言えよう。

人手不足云々と妄言を吐く前に、国内に数百万人もいる失業者の活用を考えるべきだし、現にロボットが代用できる職種や職業なんてほとんどない。(あるとしたら、政治家や経営の仕事くらいか?)

自販機への缶ジュースの充填作業ですら人手に頼っている世の中で、労働のロボット化なんて考える暇があるのなら、経済効果の見込める失業対策でも考えてみろと言いたくなる。

中前氏によれば、ゾンビ企業シバキ上げによる生産性改善運動により、2030年には日本経済に僥倖がもたらされるそうだが、あと14年もの間、このまま不況を放置するつもりなのか?

この点を見るだけでも、彼の主張のいい加減さが窺えようというものだ。

今回は、財政問題と社会保障制度の削減を人質に取る成長放棄論者とゾンビ企業シバキ上げによる生産性万能論者のバカげた論考を採り上げたが、こうした暴論や妄言が大手を振って大新聞誌上に掲載されるのも、供給や生産性の源泉となりそれらを支える栄養分やエンジンとなる“所得と需要”の存在や重要性に対する理解がまったく深まっていないことによるものだろう。

浮世離れした識者や経営者の連中はともかく、実社会で生産と消費のメインプレイヤーとして活動し、経済活動の指揮者ともいえる中低所得者層の国民は、こうした経済原理の根本をよく理解しておくべきだ。