うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

目の前の不安を取り除けば、将来不安も解消されるもの

(株式会社日本総合研究所理事長 高橋進

「経済対策の内容については、一時的な需要刺激策よりも成長力を強化する取組、企業や消費者の将来不安を取り除く取組を重視すべき」

サントリーホールディングス社長 新浪剛史

「我が国においては、この影響(※世界的な消費や投資の縮小のことを指す)を乗り切っていくために、まず将来の不安を取り除く施策を早急に進めていくべきだと思う。その中で最重要なことは、子育て、年金、医療、介護のような社会保障セーフティーネットをよりしっかりと、民間の知恵も入れて効果的に機能させ、国民に安心感を醸成すること。社会保障の充実に向けては、歳出改革によるワイズ・スペンディングを担保しつつ、また、所得の再分配も検討し、係るネガティブな不確実性を打破していくことが必要である」

上記2名の発言は、いずれも平成28年第11回経済財政諮問会議(6/28)の議事要旨より抜粋したものだ。

要点を掻い摘んで訳すと、彼らは「国内の消費や投資を冷え込ませている主病巣は、社会保障に対する将来的な不安にあり」と言いたいわけで、この後は、「国民を消費に前向きにさせるには、持続性のある社会保障制度の確立」が欠かせず、「社会保障財源をしっかり確保するためには消費税増税が不可欠」であり、「増税を避けていては将来世代に大きな負担を先送り」することになる、と論理展開されるのがいつものパターンである。

この“消費の落ち込みは社会保障制度に対する不安説”は、単に消費税増税のための露払い的な枕詞に過ぎないのだが、マスコミを通じて政府首脳や識者の連中があちこちで吹聴するせいか、政治や経済に関心の薄い国民の脳には案外スッと入ってくるものらしい。

特に、医療費や介護・年金問題に切実な想いを持つ高齢者世代には、“増税か、社会保障制度の瓦解か”というバカげた二者択一論に簡単にダマされる者が多い。

新聞の投稿欄やTVの街頭インタビューなどで、「社会保障がきちんとされるのであれば、税金が上がるのも仕方ない」とか「集めた税金の使い道を解かりやすく説明してほしい」、「社会保障の充実や財政再建のためには消費税増税は避けられない」といった具合に、増税を不可避なものと受け容れ、現政権をはじめ増税を目論む増税派の動きに対して、早々に白旗を上げ、軽減税率の導入や行革推進・財政支出削減等といった条件闘争にステージを移そうとする腰抜け発言が目立つ。

“使い道さえはっきりしていれば、税金を上げられても構わない”なんて間抜けな発言をする者には、呆れるよりほかない。

この先、消費税率が30%くらいになっても、その使い道さえ説明すれば、納得できるとでも言うつもりか?

こんな精神薄弱な発言をするから、いとも容易く増税派に付け込まれるのだ。

この程度の幼稚な論法が罷り通るのなら、時の政権が、適当に見かけ上の社会保障予算の内訳を取り繕っておいて、“これだけ足りませんから、税率を〇%に引き上げます”とさえ言えば、いくらでも増税することができてしまう。

高齢者世代は、社会保障の充実のためなら増税もやむなしと譲歩したがるが、2014年に税率を8%に引き上げた際に生じた5兆円の財源の「使途」のうち、「年金国庫負担分2分の1の恒久化」と「既存の社会保障の安定財源確保」が8割以上を占めており、これではすでに実施している分の財源を消費税に置き換えただけで、増税分はすべて社会保障費に使うという政府の説明は真っ赤なウソだ、という指摘もある。

そもそも、増税したお金を社会保障費に充てるだけでは、右のポケットから出したお金を左のポケットに移すようなもので、マクロ経済に何らプラスの影響を与えられないだろう。

税として徴収されたお金が社会保障費で戻ってきたところで、家計にとって何の意味もあるまい。

それなら最初から税として徴収されることなく、自由意思に沿って使い道を選択できる方が遥かにマシだろう。

しかも、消費税は、日常的かつあまねく広く課税されるため、速効性の強い消費抑制効果があるのに対して、社会保障費は、そのメリットを享受できる対象に偏りがあるうえに、その効果を実感するまでに時間がかかる。

経済に対する両者の弊害と効果の波及速度には大きな差異やタイムラグがあり、増税による弊害の方が先に実体経済を直撃するため景気落ち込みが先行し、人々の将来不安とやらを払拭できぬまま対策が後手に回りがちとなってしまい、景気悪化~社会保障への不安~増税~景気悪化…という負のループを辿ることになる。

冒頭の二人だけでなく、増税派の吐く“消費の落ち込みは社会保障制度に対する不安説”は不完全な主張であり、社会保障財源を人質に取って増税推進を企図する悪意に基づくものである。

彼らにとって重要なのは、均衡財政や財政再建という様式美を完成させることであり、社会保障制度の充実や実体経済の活性化など興味の対象外のことでしかない。

消費や投資が落ち込み景気が低迷しているのは、社会保障制度に対する不安という長期的なネガティブ要因だけではなく、眼前の雇用不安や所得低迷に対する現実的かつ強い不安といった短期的なネガティブ要因のせいでもあり、むしろ、後者による影響の方が遥かに強烈だというのが自然な考え方だろう。

増税により値上がりした商品を前にして、買い物を躊躇する人々の頭に浮かぶのは、医療費とか年金云々ではなく、目の前にある財布の中身なのだ。

財布の中身がぎっしり詰まっており、来月の給料も上がるという確信があれば、数十年先の年金のことやいつ罹るとも知れぬ医療費のことなど気にすることはない。

冒頭にご紹介した「経済対策の内容については、一時的な需要刺激策よりも成長力を強化する取組、企業や消費者の将来不安を取り除く取組を重視すべき」という高橋氏の発言も、原因と結果を(意図的に)取り違えた暴論であり、「経済対策の内容については、大規模かつ長期的な需要刺激策により消費や投資の原資と成り得るマネーを大量に供給し、民間経済の活性化を図りつつ成長力を強化する取組、企業や消費者の将来不安を取り除く取組を重視すべき」と訂正すべきだ。