うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

口当たりのよい薬ほど効かぬもの

先日、日経新聞を眺めていると、「グローバルオピニオン」なるコラムを見つけた。

今回の執筆者は、米コロンビア大教授のグレン・ハバート氏(元米大統領経済諮問委員会委員長)で、「先進国は就労促す改革を」という副題が添えられている。

元々、ハバート氏は重度の構造改革論者で、金融政策には否定的な人物(当然、財政政策は更に否定的)である。

当コラムでのハバート氏の意見は次のとおりだ。

①先進国にとって共通の課題は、労働参加率と生産性の向上

②勤労を阻害する障害を取り払い、企業や個人が活動しやすくなるよう規制改革や税制改革を断行すべき

③日本の成長率を上げるには、女性が働きやすい環境整備と農業改革などの構造改革が不可欠

④金融緩和政策は生産性向上につながらないばかりか、円安による輸入物価上昇の悪影響をもたらす

⑤財政政策は短期的なインフラ投資に止め、消費税増税を段階的に進めて財政問題の解消に努めるべき(増税を見越した駆け込み消費にも期待)

⑥医療など社会保障制度の効率化による歳出抑制が必要

自由貿易の否定(高関税)は輸入物価上昇につながり中低所得層に打撃を与える

⑧お金のバラマキではなく、働く意欲のある人に力を与えることが重要

日経新聞の愛読者や構造改革教に心酔するバカ者の心にはストンと落ちる内容だろうが、こちらはそうはいかない。

④の金融緩和政策は生産性向上につながらない、という部分だけはOKだが、その他は、幼稚な世迷い言だろう。

先進国にとっての最大の経済的課題は「需要不足」とその主因たる「財政政策に対する嫌悪感」および「適切な所得分配構造の破壊」であって、労働参加率や生産性云々は、そこから派生する問題の一つに過ぎない。

ハバート氏は「勤労を阻害する障害」を気にしているようだが、財政政策の縮小、構造改革規制緩和の強行こそが、その最大の障害になっていることを指摘せねばなるまい。

我が国の失業率は今年3月時点で3.2%ほどとされるが、元々、分子となる「完全失業者」の定義が極めて厳格であり、潜在的な失業者の実態を反映できていないとの指摘がある。

現状の不完全な指標によっても、国内の完全失業者は216万人もおり、このほかにも統計から漏れた“隠れた失業者”が400万人以上存在するとの指摘もある。

http://www.garbagenews.net/archives/2039332.html

こうした600万人以上にも及ぶ失業者の勤労を阻害しているのは、適切な財政金融政策を放棄し不況を容認する政府と労務コスト削減に勤しむ企業側の姿勢に他ならない。

実際に、政財界の連中は、労働単価の安い外国移民受入や同一労働同一賃金制度の導入をこぞって進めようとし、失業者の雇用どころか、日本人の賃金水準引下げに血眼になっているではないか。

彼らは、労働コスト削減の観点から女性の労働参加にも積極的だが、当の女性は迷惑顔だ。

エン・ジャパン株式会社による『子どもを持つ女性の「働く」意識調査』(2015年7月)によると、子どもを持つ女性の就業率は52%に止まり、現在働いていない層が望む働き方は「家事や育児などプライベートと両立できる程度で働きたい」との回答が68%に上ったそうだ。

子供を持つ女性の半分が働いておらず、この先働くとしても、空いた時間でできるパートやバイト程度の働き方しか望んでいないらしい。

また、民間の調査データによると、管理職への昇進を希望しない女性の割合は65%を超えるとされ、その理由として、「責任が重くなる」「仕事量が増える」「時間がなくなる」といった回答が上位を占めているそうだ。

ハバート氏の他の論説に関しても、その誤りや矛盾を指摘しておく必要があるだろう。

農業改革云々については、どうせ大規模化とか市場開放の話だろうが、大規模化を進めるほどイニシャルコストが膨らみ、新規参入のハードルが高まるだけだろう。

消費税増税による駆け込み消費への期待なんて、ただの需要の先食いであり、永続的に続く増税による消費抑制効果を見落としている。

社会保障制度の効率化(=給付条件の悪化+自己負担率の上昇)は、家計の実質所得を抑制するだけであり、ますます個人消費を落ち込ませることになる。

関税による輸入物価云々については、雇用や所得の安定と消費の一部を占めるに過ぎない輸入物価とを天秤にかけて脅しつけるまやかしに過ぎない。

所詮、消費は所得の内数なのだから、購入品の一部の価格上昇に右顧左眄するよりも、個人の生活を支える雇用や所得全体の安定化の方を選択すべきだろう。

最後の「バラマキよりも就労支援を」という主張は、因果関係を真逆に捉えた戯言だろう。

国内に600万人以上もいる潜在的な失業者を就労させるには、そうした雇用にかかる雇用主側のコストを吸収できるだけの売上や収益が確保されねばなるまい。

問題なのは、そうした原資を民間経済(国内需要と海外需要)だけで生み出せるのかということだ。

コストカットと外国移民の推進、資本の海外移転にばかり血道を上げている民間企業に、数百万人にも及ぶ失業者に雇用の場を与え、十分な給与を払うだけの資力と度量があるのか?

これほど莫大な量の失業者を吸収するには、生半可な手立てでは到底無理で、異次元の財政金融政策を通じて、その原資を実体経済に供給してやらぬ限り実現不可能だろう。

ハバート氏のような観念論者は、物事や世の中の事象に関して、極めて表層的にしか理解していない。

構造改革規制緩和がどういったルートで成長率向上につながるのかについて、具体的な説明を一切しないし、労働参加率が低い原因はどこにあるのか、増税社会保障制度の改悪が経済にどういった影響を及ぼすのかといった点について、目の前にある事象しか捉えていない。

現実の世界には、目の前にある事象の更に向こうに側に別の事象につながるドアが複数枚存在しており、それらをすべて開けていくと、やがて「需要不足=売上や所得になるお金の不足」という問題に行き着くはずだ。

彼らが最後のドアを開けた先にある結論は、「最良の処方箋は、改革ではなく、バラマキである」という事実であろう。