うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

賢い支出よりも、全員に行き渡るバラマキを

『ワイズ・スペンディング【wise spending】』

“「賢い支出」という意味の英語。経済学者のケインズの言葉。不況対策として財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野に対して選択的に行うことが望ましい、という意味で用いられる。”(デジタル大辞泉

このワイズ・スペンディングなる言葉は、2009年頃、時の麻生政権が、約15兆円の大規模経済対策を決定する際の理論武装のために登場した概念だそうで、昨今の経済財政諮問会議のペーパーにやたらと登場する。

“「経済・財政再生計画」に掲げる歳出改革等を着実に実行し、国・地方を通じたワイズ・スペンディングを徹底する。(平成28年会議資料 骨太方針に向けて~600兆円経済の実現~)”

“リターンの大きい政策に重点化するといったワイズ・スペンディングに徹し、経済再生と財政再生を目指す明快な展望を描いていくことが重要である。(平成27年会議資料 経済・財政再生アクション・プログラム “見える化”と“ワイズ・スペンディング”による「工夫の改革」)”等々、会議資料のあちこちに散見される。

安倍政権は、表向きこそ「経済再生なくして財政再建なし」、「成長と分配の好循環」を標榜しているが、実際には、2018年度のPB赤字対GDP比1%程度、2020年度のPB黒字化というPB目標を堅持したまま、「経済・財政一体改革」による歳出改革を優先させようとしている。

「ワイズ・スペンディング」という語句の用法も、財政政策の正当性を装飾するためという当初の目的とは遥かに乖離し、単に、財政政策の実施規模を極力抑え込むためのアンカーとして使われているようだ。

そのことは、ワイズ・スペンディングが登場する資料には、必ずと言ってよいほど“歳出改革”、“KPI”、“PDCAサイクル”、“見える化”といった「お目付け役」となる語句が、前後を取り囲むように記載されていることからも読み解ける。

冒頭に紹介したワイズ・スペンディングの解説文には、「不況対策として財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野に対して選択的に行うことが望ましい」とあるが、まったく逆だろう。

筆者は、財政政策を不況対策のみに用いるカンフル剤と位置付ける考え方を明確に否定する。

財政政策は、カンフル剤なんて軽いものではなく、実体経済の維持・活性化に不可欠な栄養分を補給するための「常食」だと考えている。

よって、“不況対策として云々”という消極的な言い草に腹立たしい思いもするが、仮に不況対策として財政支出を活用するのなら、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野にのみ資金を投じるやり方は、実体経済に還流する資金の偏在を生むだけで、経済再生にとって大した効果を生むことはできない。

比較的恵まれた事業分野の企業が、より恵まれるだけで、業界ごとの格差拡大を助長する結果に終わるだろう。

マクロ的な不況下で財政支出をするなら、一部の業界や分野にのみ資金を投じても、全体の需要が落ち込んでいるのだから、そこから先の経済波及効果は極めて限定的にならざるを得ず、結局、財政出動の効果そのものが疑われることになる。

こうした緊急時は、あっちの業界、こっちの業界と選り好みせずに、十二分な資金を広く厚く投じるべきなのだ。

食糧を求めて広場に集まった群衆を前にして、ほんの数か所に食べ物をバラ蒔くと、猛烈な奪い合いを生み、群衆は互いに傷つけ合い、体力も消耗し、撒かれた食べ物もバラバラにされてしまうだろう。

これでは、食べ物を撒いた甲斐もないし、飢餓に苦しむ群衆を宥めることもできない。

血走った眼をした群衆を行儀よく並ばせ空腹を満たしてやるには、全員が満足できるだけの物量の食糧を配給せねばなるまい。

将来性のある人間だけをピックアップし、別室で個別に食糧を渡すような真似をすれば、群衆の不信感を買うだけに終わる。

経済財政諮問会議のメンバーのような改革バカの連中は、“選択と集中による賢い支出”とか“効果のある事業”とか言いたがるが、個別事業の効果測定にいちいち拘っていると、肝心のマクロ経済成長という果実をものにする機会を逸してしまう。

先の経済財政諮問会議に提出された「国の行政をチェックしよう」という内閣官房制作のパンフレットがあり、その5ページに国の予算編成スケジュールが例示されている。

それによると、4~8月にかけて、各省庁による個別事業評価のためのレビューシート作成と評価が行われ、それを基に9~12月にかけて次年度の予算編成作業が行われると示されている。

通常、省庁レベルの補助事業や委託事業などは、実質的に7月頃にスタートすることが多いのだが、このスケジュールなら、まだ始まってもいない事業を評価し、事業の進捗途中で効果測定や評価を行い、来年度の予算編成作業を同時並行で進めることになる。

要するに、個別事業の効果測定を単年度で行うことなんてそもそも不可能だし、初めから真面目にやる気がないのに、やったフリを装うために、KPIだ、PDCAだと叫んでいるだけだし、これまで大した支障もなかったのだから、そもそも事業評価を厳密に行う必要性があったのかどうかも怪しいものだ。

特に、不況期にあっては、個々の事業の効果測定や検証作業に多大な労力を掛けること自体が大いなる無駄だと言える。

公務員に余計な残業代を支払うよりも、やるべきことは他にあるだろう。

財政支出の最大の効果は、国内産業や家計に使えるお金を供給し、民間経済主体にその循環を促すことに尽きる。

肝心なのは、「実体経済に投じられた資金の循環を促す」点にあり、一回きりの給付金のような単発事業では到底成し得ない。

つまり、大規模かつ長期的な財政金融政策を打つことが何より重要であり、それによって、

・経済成長や所得向上が実感できる豊かな経済環境の恒常化

・十分な所得を得ることができる多様な職業・職種の創出

社会保障制度の発展的充実と拡張

の実現を図れば、人々も経済活動に熱中し、財政問題に対する下らぬ関心も自然に薄れるだろう。

不況時における経済政策の目標は、“財政再建”であってはならない。

打ちひしがれた人心を奮い立たせ、明日への期待を紡ぐためにも、“適切な分配を前提とする経済成長”を最大かつ唯一の目標とすべきだ。