うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

現状認識の誤りが失敗の始まり

先日、とある自治体の経済担当部局の幹部と話をする機会があった。

最近、インバウンド景気の波及が一部に止まり、一時は盛り上がった公共事業関連の仕事がすっかり鳴りを潜めたこともあり、筆者の暮らす地域でも、創業機運は低調で中小企業の業況も思わしくない。

当の幹部から、地域の景気動向を懸念する意見を聞くことになるのかと思いきや、彼は、「失業率も落ち着き、企業からはしきりと人手不足を心配する声が上がっている。株価や株価も落ち着いているのに、なぜ、企業経営者は元気が無いのか?」と本気で不思議がっていた。

先日、政府の招聘により、アメリカから、スティグリッツ教授とクルーグマン教授の2名のノーベル経済学賞受賞者が相次いで来日し、安倍首相と会談した。

既に報じられているとおり、両教授とも、来年春の消費税率引上げに対して明確に反対するという意見を述べている。

筆者が呆れたのは、3月16日の国際金融経済分析会合の席上で、日銀の黒田総裁が、スティグリッツ教授に向かって、「不可思議なことがある。アベノミクスのもとで企業収益は改善し労働市場も引き締まっている。急速な賃上げが起きるのが普通だと思われるが、実際の賃上げのペースは緩い」と疑問を呈したことである。

スティグリッツ教授も、内心では、“これほど世情に疎いバカに日銀総裁が務まるのか?”と呆れ返っていたことと思うが、そこは教授も大人だから、黒田総裁に対して、「米国では職探しを諦めた人が失業者に分類されないなど失業率労働市場を正確に表していない。失業率とインフレ率の関係が瓦解してきている」とやんわりと指摘したそうだ。

前述の自治体幹部も黒田総裁も、数値データだけを頼りに、しかも、自分が望む方向に都合よく解釈して歪曲するから、経済動向や景況感の分析・判断を誤るのだろう。

株価と外需偏重気味のアベノミクスにより収益が改善しているのは、一部の輸出メーカーと人材派遣会社の類いくらいなもので、労働市場が引き締まっているように見えるのは、“低賃金で長時間労働や残業を厭わず黙って働いてくれる奇特な求職者が減っている”だけのことだ。

当地のパート募集チラシを眺めても、数年前と比べて時給は僅か10~20円程度しか上がっていないし、相変わらず週5日勤務での求人がほとんどで、融通の利かないシフトになっており、これでは、主婦層の掘り起しも上手く行くまい

春闘相場が昨年よりペースダウンしたことが報じられたばかりだし、サラリーマンの平均年収も大して上昇しておらず、労働市場が引き締まる要因など全く見当たらない。

黒田総裁のように、奴隷の公募に人が集まらないからといって、就職事情の好転や急速な賃上げに結び付けて考えるとは、世間知らずにもほどがあろう。

スティグリッツ教授が指摘するように、現在の失業率は求職者の実態を正確に反映できておらず、実際よりかなり甘くカウントされている。

また、失業していないからといって、雇用条件が目に見えて改善されているわけではなく、むしろ、一人当たりの労働量や労働時間(ノルマも)が増え、実質的な賃金や雇用に対する満足度はかなり低下しているだろう。

スティグリッツ教授に続いて、クルーグマン教授も政府に対して、「世界経済は弱く日本の状況を一層困難にしている。消費税増税は延期すべきだし財政刺激策も必要だ」と述べ、金融政策や財政再建に軸足を置いた安倍政権の経済運営を批判した。

だが、わざわざ、両教授を呼びつけるまでもなく、ここ数年の経済動向を素直に分析すれば、消費税増税などもってのほかで、強力な財政金融政策の実行が不可欠であることくらい、当たり前に理解できるはずだ。

それすら解らぬ無能な宰相が、日本のトップに居座り続けるのは、日本経済にとって害毒でしかない。

日本経済は、1997年以降ぱたりと成長が止まり、巡航速度で成長し続けたケースと比べて、数千兆円にも及ぶ膨大な国富を失っている。

家計一世帯当たりの所得喪失額の累計は5,000万円を下らないだろう。

とりわけ、家計や中小企業が負った傷はかなりの重傷であり、消費税増税を論じること自体が不届き至極と言ってよい。

増税を容認するバカな連中は、現時点での家計所得を基準にして、これが少しでも上向くと、すぐに“増税できる環境が整った、増大する社会保障財源の手当てのために増税待ったなしだ”と騒ぎ立てるが、そもそも前提条件が間違っている。

現状の家計所得を基点(=ゼロ地点)に見立てるべきではない。

なぜなら、多くの家計は、経済成長が止まったことにより、本来得ることができた膨大な所得を失っており、いわば、巨額の債務を抱えているのと同じ状態にあるため、現在の所得を基点とするなら、ゼロではなく、当然マイナス値としてスタートさせるべきだからだ。

よって、家計所得や実質消費が数%伸びたからといって、早とちりするのではなく、マイナス値が少々改善されたと受け止めるべきなのだ。

今回の安倍首相が、わざわざ国際金融経済分析会合を開き、スティグリッツ教授やクルーグマン教授に税率引上げ反対の意見を述べさせたのは、巷間噂されているとおり、参院選を見据えたデモンストレーションと言って差し支えない。

前回の衆院選でも同じ手口で大勝したことに味をしめたのだろう。

経済財政諮問会議の資料では、財政再建に向けた道筋を何より優先することが謳われており、消費増税の延期を鵜呑みにすることはできないが、自民党議員の相次ぐスキャンダルによる失点を挽回するために、半年から一年程度再延期するくらいはやるかもしれない。

そして、多くの国民が、再度、安倍首相の仕掛けた苦し紛れのパフォーマンスに引っかかることになるだろう。

家計や中小企業が抱える経済的な苦境を考慮すれば、税率据え置き程度で良しとするような悠長な状況ではない。

大規模な財政支出による実体経済への資金供給は無論のこと、消費税減税や廃止はおろか、定率減税や年少者を対象とする給付金、国庫による社会保障負担割合の引上げ、教育関係費の全面無償化、公的事業従事者の賃金引上げなど、家計や中小企業の所得向上に直接的に効果のある施策をフル稼働させるべきだ。

日本のように潤沢な資産と供給能力を有する国家においては、通貨創造機能を有する国庫のバランスシートを心配する必要はない。

日本は財政危機だという誤った幻想を捨てて、家計や中小企業のフローとストックの改善に効く政策を実行することだけを考えておればよい。