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うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

「外需信仰」という防波堤

この間、農林漁業者の会合に参加したが、その席で挨拶に立った農業者が、「TPP大筋合意のニュースで農家は大変動揺している。国内の人口は2050年ころには8,000万人くらいに減るから、今後は東南アジアなど海外輸出を増やすしか選択肢はない」といった趣旨のスピーチをしていた。

筆者は、こういった“経済動向は人口に束縛される”という類いの都市伝説を彼方此方で聞くたびにウンザリさせられるのだが、この手の「胃袋経済論者」が喜びそうなニュースが報じられた。

『農林水産物輸出額 過去最高の7452億円-27年』

農業協同組合新聞 2016年2月3日)

農林水産省は2月2日、平成27年の農林水産物・食品の輸出額(速報値)を発表した。3年連続で最高額を更新し前年比で1335億円増え7452億円(21.8%増)となった。

政府は農林水産物・食品の輸出を平成32年に1兆円とする目標を掲げ28年に7000億円とする中間目標を立てていたが、これを前倒しで達成した。(後略)」

http://www.jacom.or.jp/nousei/news/2016/02/160202-29056.php

価格が高いばかりで大した付加価値もないフランスワインですら、年間輸出額が1.2兆円(2012年/FAO資料)にもなろうというのだから、質の高い日本の農産物(加工品を含む)の輸出高が、今後大幅に伸びても何の不思議もない。

海外に売れば売るだけ農業者の所得向上になるのだから、官民挙げて大いに輸出に注力すればよい。

だが、筆者は、こうした輸出礼賛一色の記事を読むたびに強い違和感を覚える。

なぜなら、胃袋経済論者が外需獲得や輸出を語る際には、必ずと言ってよいほど、内需縮小宿命論を前提に、内需振興と輸出拡大とが対峙させられ、さも当然のように両者をトレード・オフの関係に置いて論じるからだ。

もはや、“外需のためなら内需を犠牲にしても構わない”と言わんばかりである。

しかし、農産物や関連する加工品の外需拡大には、大きな課題が残っており、政府が夢想するほど簡単なものではない。

一つには、物流の根本を成す輸出インフラ整備の立ち遅れの問題があり、もう一つには、製造や物流コスト高の問題、また、外需の不安定さという日本マターでは解決不能な厄介な問題も立ちはだかる。

政府が輸出振興を叫ぶのは口先だけで、国内のインフラ整備は立ち遅れており、生産地や加工地と輸出の出発点となる海上コンテナや航空貨物の拠点地域との距離の問題が生じている。

生産地の近くに、輸出規格の港湾施設や国際定期便が発着する空港が、きちんと整備されていればよいのだが、現実には、国内における海外コンテナの主要な船積港(輸出量月3000トン以上)は東京・横浜・神戸など8か所、航空貨物の発空港は成田・羽田・関西など7か所程度に止まる。

輸出と簡単に言っても、港のすぐ傍で物を作っているわけではない。

青森の農産物を東京や神戸まで運んだり、稚内の水産物を400㎞以上離れた苫小牧港まで輸送したりする手間やコストが当然掛かる。

このほかにも、コンテナを埋めるだけの物量の確保、混載時の温度管理・臭気防止、破損防止用の緩衝材の問題(コスト高・回収費用・国別の材質規制)、輸出中の温度・湿度・鮮度管理、輸出先での煩い検疫やその割に貧弱な冷蔵設備の問題、復路の空荷輸送等々、眼が眩むほど大量の課題をクリアせねばならない。

特に、コンテナに搭載する積み荷の確保が大きなネックとなる。

海上コンテナの長さは、主に20フィート (6,058mm)、40フィート (12,192mm) の2種類があり、幅は8フィート (2,438mm)、高さは8フィート6インチ (2,591mm)もあるため、これだけの量の荷を積み、継続的に売り捌くだけの販路を確保する必要がある。

概して小規模事業者の多い農林漁業者や加工食品メーカーにとって、これは高い壁となる。

複数の事業者や農家から多品種の積み荷を預かり、それらを混載させる手もあるが、温度管理や臭気防止のほかにも、生産計画や出荷時期もバラバラであり、現実的にはかなり難しい。

また、昨今、中国発の経済危機到来が懸念され、それが新興国や資源国に波及し、世界同時不況が囁かれている情勢で、徒に外需へドライブをかけるのは、後の火種となりかねない。

国内需要を満たした余りを輸出して小遣い稼ぎをするつもりならよいが、外需をメインマーケットに見立て、それに寄り掛かろうとするのは非常にリスクが高い。

国際通貨基金IMF)が1月19日に公表した今年の世界経済見通し(改定値)では、2016年と2017年の世界全体の成長率をそれぞれ3.4%、3.6%とし、いずれも、当初見通しより0.2%下方修正し、特に、ブラジルやロシアなどの資源国はマイナス成長を予測している。

農産物や加工品などの売上総体(内需+外需)が伸びるのは構わない。

問題なのは、その内訳に占める外需依存度を過度に引き上げてしまうことだ。

高級メロンが飛ぶように売れるからと調子に乗り、外国人にさえ売ればよいと外需に頼り切っていると、中国の経済不況の波をモロに被った新興国や資源国の失敗と同じ構図になってしまうだろう。

自国によるコントロールの範囲外にある外需への依存度が増すだけ、産業としてのリスクは高まり脆弱性が増すことに警戒すべきだ。

どうも、政府や官僚、財界ばかりか、当の農業者まで、内需と外需とをトレード・オフの対立軸で捉え、成長する外需に気を取られ、内需を蔑ろにする思想に憑りつかれているようだ。

あたかも、「国内人口の減少は止められず、このままでは日本経済は破綻する」、「いまどき内需振興を口にするのは時代遅れの恥ずかしいこと」だと言わんばかりである。

だが、国内の所得の総計でもあるGDPの動向は、人口のみに左右される訳ではない。

100名が500万円ずつ消費するよりも、90名が700万円ずつ消費できる社会の方が、遥かに豊かであることくらい、すぐに理解できるだろう。

現在、平均で600円ほどのサラリーマンのランチ代が、バブル時代のように750円くらいになれば、それだけで経済成長できるのだから、少々人口が減ったからといって悲観する必要はない。

人口の減少率を、一人当たりの所得や消費に使う金額の増加率が上回ればよいだけの話だ。

そうした豊かな社会を形成できれば、遠からぬ将来に人口減少のトレンドを変えることも容易だろう。

冒頭にご紹介したスピーカーではないが、やたらと“輸出だ、外需だ”と持ち上げる連中は、外需に期待するというよりも、むしろ、内需振興を求める意見を鎮圧するための“殺虫剤”として、都合よく外需という言葉を利用しているだけだ。

彼らは、外需や輸出拡大に煌々たる光を当てる一方で、内需をその対義語として位置付け、そこに暗い陰影を落とすことにより、内需を創造する財政政策に“時代おくれ”、“禁じ手”というイメージを植え付けようとしている。

外需依存症の連中が外需振興を叫ぶ意図は、海外市場の開拓というよりも、案外、内需拡大に固執する気に食わない勢力を黙らせたい、という辺りにあるのではないか。

しかし、本来、内需と外需は対立させるべきものではなく、両立させてこそ相乗効果を発揮できるものだろう。

特に、農産物などは、産出額全体で8.5兆円にもなり、輸出の占める割合は1割にも満たない。

伸び盛りの輸出振興に注力するのは良いとして、メインマーケットたる国内需要の掘り起こしを放棄する意味など全く見出せない。

「人口が減る国内からいかに上手く逃げ出すか」ではなく、「当面人口減少が見込まれる国内において、いかに一人当たりの農林水産品の購入額を引き上げられるか」に知恵を絞るべきだ。

必死に外貨を稼いでも、長期的な時間軸で見れば、輸出量の増加に伴う自国通貨高の壁に何時かはぶつかることになる。

そうしたリスクを回避できる国内需要の振興と掘り起こしにこそ、注力すべきである。

製造業では、最終消費地の近くで生産する「消費地生産」の美名の下で、野放図な製造拠点の海外移転が進められてきたが、このまま外需依存症を放置していると、将来的に農業従事者の海外移転すら進みかねない。

こうした事態を招かぬためにも、積極的な財政金融政策による内需拡大を図り、農業の地産地消促進に向けた社会基盤を創り上げていくべきだ。