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うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

本当の「インフレ期待」とは〜期待するだけでは、インフレ期待は生まれない〜

先月末に名古屋市で講演した日銀の黒田総裁から、追加緩和の実行を匂わせるような発言が飛び出した。

日銀総裁、物価2%は早期に達成 賃金上昇まで待つ考えない」

(11月30日ロイター、http://www.msn.com/ja-jp/news/money/

『日銀の黒田東彦総裁は30日、愛知県の名古屋市内で講演と会見を行い、賃金と物価の動きは同調的とし、賃金が上がるまで物価の上昇を待つ考えはない、と語った。2%の物価安定目標の早期達成にあらためて意欲を示したもので、物価の基調に変化が生じれば「追加緩和であれ何であれ、ちゅうちょなく金融政策を調整する」と強調した。

総裁は中長期的に物価と賃金が同調的に動くのは「統計的な事実」とし、「物価目標の実現をゆっくりやっていれば、賃金の調整もゆっくりになるだけだ」と指摘。このため、毎月などのペースでみて賃金の上昇が物価よりも遅れているからと言って「賃金がもっと上がるのを待とうとはまったく考えていない」と明言し、「物価のパスを考えていく上では、賃金も上がっていくことを期待している」と語った。

そのうえで、「われわれは賃金をコントロールできるわけでもないし、ターゲットにしているわけでもない」と述べ、物価2%の早期達成によって賃上げも実現していくとの見通しを示した。物価の問題である以上、「まず行動すべきは日本銀行」と強調。「物価が2%の目標に向けて着実に前進していくことが重要」とし、「2%の物価安定目標の早期達成が難しいのであれば、ちゅうちょなく追加緩和であれ何であれ金融政策を調整する」と語った。』

(後略)

つい先日、日銀の白井審議委員から、2%の物価目標達成が16年度後半から17年度前半にずれ込むかもしれないとの発言があったばかりで、目標達成のロールオーバーが永遠に続くのかと懸念されたが、総裁直々に、そうした消極的な意見の火消しに走り回らざるを得なくなったのか。

いまや“経済政策のオオカミ少年”と化した日銀首脳陣が、相当焦りを募らせていることだけは確かだろう。

上記の黒田総裁の発言で気になったのは、“物価上昇が賃金上昇を担保する”と単純に思い込んでいる節がある点と、日銀の金融政策は賃金のコントロールできないと言い放ち、雇用の質には関心を持っていないことを認めた点だ。

リフレ派のようにインフレターゲット政策を手放しで擁護する連中は、フィリップス曲線を持ち出して、「インフレが起こると失業率が下がり、失業率が上がると物価が下がる」と主張するが、結果だけを捉えて、それが事象の全ての要因を説明できるかのように決めつけるのは間違っている。

インフレが失業率の低下を保証するのではなく、なぜインフレが起こったのか、どういう経済要因がインフレを引き起こしたのかを含めて考察する必要がある。

適切な経済政策により家計や企業の所得や売上が増え、消費や投資が活発化してディマンドプル型のインフレが起こるなら良いが、いまのように、フローが改善されぬまま、生活必需品ばかりが値上がりするようなコストプッシュ型のインフレなど、誰からも歓迎されないだろう。

さらに、“失業率”と一括りにするのではなく、その反対側にある雇用の質の在り方まで確認しておく必要があるだろう。

表面上、失業率が減っていたとしても、それが非正規雇用やパートタイムが増えただけなら、単なる“雇用改善詐欺”でしかない。

黒田総裁は、会見の後段(後略した部分)で、「明らかに企業の価格設定行動が変わり、家計も受容している」と発言しているが、それはトンデモナイ勘違いだ。

消費の現場を歩けば直ぐに解かるが、生活需品の中でも、特に衣料系や食品関連の値上がり(便乗値上げも含めて)が目立つ。

食料品などは、値上がりに加えて、内容量の削減により実質値上げされたものも数多くある。

おまけに、消費税の増税も重なり、家計は相当強いショックを受けている。

先日公表された総務省の家計調査(10月確報)では、勤労者世帯の実収入は48.5万円と、前年同期比で実質▲0.9%、名目▲0.6%と2ヵ月連続で減少し、1世帯当たりの消費支出は28.2万円と、前年同期比で実質▲2.4%、名目▲2.1%と大きく落ち込んでいる。

こうした厳しい環境下で、家計が、企業の強引な値上げを前向きな態度で受容するはずがなかろう。

アチコチ見渡しても、便乗値上げされた商品ばかりで他に選択肢がないから、仕方なく従わざるを得ないだけのことだ。

それを証拠に、食品売り場で痛い目に合った家計は、財布の紐をきつく縛り上げ、他の品目への支出を減らし、その余波を喰らったTV(▲48.5%)やPC(▲21.7%)、自動車(▲29.4%)等が大きな損害を蒙っている。

つまり、収入全体が減る中でTVやPCから食料品への代替消費が起こってしまったということだ。

従来から、リフレ派の連中は、インフレターゲット政策を採るアベノミクスで雇用は改善していると大はしゃぎしてきたが、結果を見ると、増えているのは飲食店や介護、建設といった一部の業界だけで、その内容も、非正規雇用やパートみたいな以前から間口が広く、手を挙げれば誰でも就ける程度の雇用が拡大しただけに過ぎず、最大のボリュームゾーンである正規の事務職の求人倍率は0.3倍にも満たないのが現実だ。

非正規やパートでも、失業するよりマシというのは醜い言い訳で、収入が増えず大した働き口もなく、不況感が強まる状況で日配品の価格上昇が進み、止むを得ずパートや非正規に就かざるを得ない人が増えただけのことだろう。

こうした状況下での黒田総裁による“日銀は賃金をコントロールできない発言”は、金融政策の限界を吐露したものといってよい。

リフレ派は、インタゲ政策の効果として、物価安定、インフレ期待、円安効果、雇用改善などを論っていたが、実際にもたらされたのは、円安に起因した輸入物価高によるインフレ不安と経済的苦境からの非自発的なパート就業の増加くらいのものだろう。

そもそも、雇用改善まで謳いながら、雇用条件や賃金の改善にまで踏み込まないのは非常に無責任な態度であり、黒田総裁の賃金コントロール放棄発言は、雇用の質までは問わない(というより、どうでもよいとしか思っていない)ことを公に認めたようなものだ。

インタゲ政策効果として、ガラクタみたいな条件の雇用でも良いから、とにかく失業率が低下したという実績を上げたい、という心情を、つい、口にしてしまったのだろう。

黒田総裁は、「ちゅうちょなく追加緩和であれ何であれ金融政策を調整する」とかなり踏み込んだ発言をしている。

しかし、財政支出の拡大による実体経済への直接的な刺激策に担保された金融緩和政策なら別だが、現行路線上のマネタリーベースを積み上げるだけの緩和策なら、日銀の国債保有額が増えること以外に大した効果は望めないだろう。

黒田総裁をはじめ日銀首脳陣やリフレ派の連中は、金融緩和政策とインフレターゲット設定の意義を、いまこそ問い直すべきだ。

世間を驚愕させた異次元緩和政策の目的は奈辺にあったのか、実体経済を好転させるためなのか、単に為替操作と株価引き上げのためだったのか、真摯に反省すべきだろう。

リフレ派は、いい加減に、「物価上昇=景気回復」という固定観念から脱却し、企業や家計、特に、中小企業や中低所得者層のフローとストックの改善が急務であることを認識する必要がある。

金融緩和政策のみの一本足打法に固執せず、大規模かつ長期の財政政策との連携を図り金融政策のポテンシャルを発揮すべきだ。

実体経済を十二分に刺激し、家計や中小企業のフローとストックを強化し、物価上昇を許容でき価格より品質の向上を求める消費層の拡大を目指すことこそが、経済政策の王道だろう。

経済のあちらこちらに、商売のタネや儲け話が散らばり、それらを狙って、家計や企業が後さき考えずに眼の色を変えて消費や投資するような熱の充満した経済環境を創り出すことが肝心だ。

金融市場にブタ積みされた巨額のマネーは、債券市場に対する威圧効果以外の何も生み出せないが、政府による万遍なきバラマキは、実体経済に収益のシーズを確実に植え付けることができ、収益期待やインフレ期待を出現させる効果を持っている。

用意すべきは借りるカネではなく、使えるカネでなければならない。

先日TV番組で、60~70年代に一般家庭に普及したブリタニカ百科事典の話が紹介されていた。

いまでは、紙媒体での印刷を終了したブリタニカ百科事典だが、普及当時には現在の価格に直すと120万円以上もしたにもかかわらず、教育熱が高まっていたこともあり爆発的に売れたそうだ。(筆者の実家にも似たような辞典があった記憶がある)

60~70年代といえば、サラリーマンの平均年収が今の1/4にも満たない時代であったが、積極的な財政政策と輸出の拡大による富の増加が、家計にも十分に波及し、所得が右肩上がりで伸びていた。

そうした所得増加に対する確度の高い期待に担保され、家計や企業は値段を気にすることなく、積極的に消費や投資に勤しんだのである。

リフレ派の連中は、本物のインフレ期待とは何か、ということを歴史に学ぶべきではないか。