うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

『カネを借りることができないこと=経営課題』という勘違い

先日、出張先で読んだ新聞記事に、当地の中小企業家同友会の代表理事が寄稿したコラムを目にする機会があった。

中小企業家同友会という組織は、以前にも別のエントリーで紹介したことがあったが、商工会議所や商工会といった経済団体とは一線を画した、言わば経済団体の野党的な存在(民商同和団体みたいな単なるゴロツキとは違う)で、行政とは一定の距離感を保ち、人材育成や商品開発に熱心な自称”意識高い系”の中小企業経営者の集まりである。(意識の割に、企業としての収益性は相当低いけど…)
コラムの内容は、地域の信金の合併に触れたもので、数年後の合併を発表した複数の信金が、元々の本店所在地域にも地元向けの融資審査部門を残す方針であることを歓迎する、という趣旨で始まり、それに関連して、次のような主張を展開していた。
①地域に必要な資金が回っていない。地域金融機関は、地域の資金を地域で回し、地域の活力強化に寄与すべき。
(当地域の信金の総預金量約7兆円に対して、貸出金は約3兆円にとどまり、預貸率は42%に過ぎない)
②地域の金融機関や金融行政担当者に、経営者の声をじかに聞き、経営指導に注力すべき。(都内にあるとある信金は、職員の目利き力の育成に熱心で、外部専門家との連携もあり、預貸率は70%を超え不良債権比率も低い)


この手合いの中小企業経営者の空理空論について、過去にも何度か取り上げてきたが、もう一度、筆者の考えを述べておきたい。
こうした金融機関に経営コンサル的な役割を求める動きは、認定経営革新等支援機関(中小企業経営力強化支援法なるどうでもよい法律に基づき、金融機関や支援機関等に企業支援分野でタダ働きさせようとするもの)という制度を通じて、金融庁経産省が熱心に推進しているものだ。

端的に言えば、”金融機関を担保依存型の融資姿勢から脱却させ、中小企業の事業性を評価し、企業サイドに寄り添った融資を行う”よう、意識改革を図りたい、という、いかにも世間知らずの素人が考えつきそうな制度である。

これに、企業経営の実態をよく解りもしないマスコミや”庶民”らが乗っかり、汗水垂らして努力している哀れな中小企業を、金融機関が融資もせずにイジメているかのような幻想を振りまくせいで、中小企業経営者も調子に乗り、事業計画も碌に説明せずに、返せもしないカネを引き出そうと躍起になっているのが実情だろう。

世間には、金融機関の審査体制を指して、「金融機関=担保主義」といったステレオタイプの批判しかできないバカが跋扈している。
これだけ、国内の不動産価格が下落している以上、金融機関として、担保主義に走りたくとも、走りようがなく、企業の事業性を最大限考慮したい(と言うより、事業性に頼りたい)と考えているものだ。

しかし、融資担当者の立場から言えば、たいがいの企業は、財務内容が悪すぎるうえに、金融機関側が事業に対する”目利き”を発揮したくとも、そもそも、経営者自らが事業の収益性や将来性を数値で説明できないし、素人目に見ても、彼らの事業が成功しそうな予感が全くしないケースが大半を占めている。
(特に、環境分野の技術開発系の案件や地域特産品の東南アジア方面への輸出案件などで、そういった傾向が顕著である)

中小企業の味方を気取る世間知らずの連中には、社会勉強のため、融資相談の現場に、ぜひ同席してみてほしいと思っている。
彼らが、自信満々に語る事業の構想が、どれほど無鉄砲で無計画なものであるか、そんな商品やサービスに金を払うバカがどこにいるのかと口をあんぐりさせられる経験を一度味わってもらいたい。
「外見じゃなくて、オレの中身を見て評価してくれ」と粋がる幼稚な中学生に、「キミは外見だけじゃなく中身も大したことがない」と本音を吐きたくなることと思う。
向こう5年ほどで5千万円くらいの売上しか見込めない事業に1億円の融資を申し込みに来るネジの外れたドリーマーに、あなたの大切な預金を貸出してもよいのかと尋ねてみたい。

そもそも、個別の企業の事業に関して、金融機関の人間は素人同然と言ってもよい。
ラーメンを作ったこともなければ、海外から機械を輸入したこともない人間に、自社の経営指導を依頼する、という発想自体がどうかしてるのではないか?

金融機関の目利き力向上みたいな口清い言葉の裏に、無料で使える便利なコンサルタント役を期待しているのなら、本末転倒ではないか。
企業が本気で経営指導を受けたいのなら、きちんと身銭を払い有料で専門のコンサルタントを招聘すべきだろう。
自社の課題すら、金融機関の職員に指摘されないと気付けないようなら、既に会社の命脈も尽きているのではないか。


また、地域経済が疲弊しているのは、地域に融資が回ってないせいだ、という論調は、原因と結果を取り違えた全くの誤りである。

いまや、大手都銀だろうが地銀だろうが、はたまた、信金や信組であろうが、融資先を探そうとしない金融機関など一行たりとも存在しない。

特に、信用力の高い企業が少ない信金・信組みたいな地域の金融機関なら、最大の経営課題は融資額の減少であり、減り続ける一方の法人融資先をカバーすべく、県庁所在地や他の中核都市で個人向けのアパートローンや住宅ローンの開拓を巡り、他行との間で壮絶なバトルを展開せざるを得ない。

本来なら、最も得意な法人向け融資事業を柱に経営拡大を図りたいところだが、長らく放置されたデフレ不況のせいで、個々の企業の財務が痛み過ぎており、前向きな(=返済可能性が担保された)融資をできるような状態ではない。

当の新聞のコラムでは、地域に資金需要がないわけではないとの記述があったが、「資金需要」とやらの実態は、赤字補てんのための自転車操業資金や滞貨資金みたいな危険なものか、実現性の欠片もない無謀な事業に注ぎ込まれる資金でしかない。
そういった返済の充てのない性格の資金のことを「資金需要」などとは、到底呼ぶべきではない。

このように、B/S(貸借対照表)の借入金を増やせば事業が上手く行くと思っている愚か者が後を絶たない。
手持ちの資金さえ確保できれば、それが借金であろうと構わない、という破綻懸念者に融資するなどトンデモナイ話である。

経営の基本は、P/L(損益計算書)の改善、しかも、その頂点にある売上の増強に尽きる。
売上こそが、企業経営にとって最大かつ最強の栄養源であり、資金繰りの出発点でもあり、ここが改善されれば、中小企業の経営課題の大半は解決される。

この点を見落として、後で利息を付けて返済せねばならない借入(融資)に汲々としている時点で、7~8割がた経営は終焉に近づいていると言ってよい。


紹介したコラムを書いた同友会代表理事には、金融機関に企業の目利き力UPを要請するような効果に乏しい遠回りな政策ではなく、もっと直接的に企業財務の改良につながる大規模かつ長期の財政政策の発動をこそ、行政サイドに強く要望すべきだと言っておきたい。


(※)新自由主義や緊縮財政主義に反対する言論サイト『進撃の庶民』(http://ameblo.jp/shingekinosyomin/)も併せてご愛読ください。