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うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

デフレに関する勘違い(リフレ編)

ここ20年近くに亘り日本経済の足を大きく引っ張り続けたデフレ不況だが、これを解決するにはデフレの要因を正しく理解する必要があるだろう。
しかし、一般の国民は、インフレには馴染みがあるだろうが、デフレの意味や弊害をほとんど理解していない。
だからこそ、専門家や識者が、それらを正しく伝える必要があるのだが、未だに、いかがわしい情報や間違った知識を撒き散らす不届き者が多くいるのが実状だ。

今回は、とあるリフレ派ブロガーの妄言を採り上げ、修正を施しておきたいと思う。(http://ameblo.jp/hirohitorigoto/entry-12083500384.html

彼は、「デフレの原因の勘違い例」として、「技術革新が起こって物が安くなる」、「中国などから安いモノが日本に入ってきてデフレになっている」の2点を挙げている。
そのうえで、両者に共通するのは、いわゆる“個別価格と一般物価との勘違い” 、つまり、“Aという商品の価格が安くなっても、消費者は浮いたお金で他のBという商品を買えるから、Bの消費需要が増え、全体の消費需要は変わらないので、すべての品目の価格を加重平均した全体の物価には影響がない”という趣旨の主張を展開している。

リフレ派の連中は、この個別価格と一般物価の話が本当に大好きなようで、ブログや論文などあちこちで援用しているのを見かける。
だが、後述するように、この「個別価格&一般物価中立論」は、いわば“一億総江戸っ子化状態”を前提とする空想上の理論で、我が国のように、国民所得が振るわず、消費が低調な経済環境下では成立しないと言ってよいだろう。

さて、件のブロガーの話に戻るが、彼は、「技術革新が起こって物が安くなる」論に関して、発売当初に極めて高額な製品であった電卓を例に挙げ、技術の進歩に応じて製品価格が下がって(電卓の場合、50万円から100円に)も、それはデフレとは言えない、と断じている。
なぜなら、「消費者はその浮いたお金で、他のものを買えるようになっている。ですから、他のものの消費需要が増え」るからだ、というのが説明の趣旨だ。

まず、彼が例に挙げた“電卓”だが、シャープが他社に先駆けて1964年に市場投入した頃は、1台数十万円もしたため普及が進まず、製品化から10年目にようやく普及率が10%を超すという有様で、そもそも、ほとんど市場に出回っていない(=購入されていない)のだから、件のインチキ中立論の例に当て嵌めるのは不適当であろう。

次に、「中国などから安いモノが日本に入ってきてデフレになっている」論、いわゆる、輸入デフレ論の是非についても、リフレ派特有の勘違いをしているようだ。

えてしてリフレ派は、この輸入デフレ論に否定的である。
(彼らの理論的支柱の一人である黒田日銀総裁は、以前に「「人民元が安くなり過ぎれば、日本の輸出業者は利益が出せず、輸入した商品が極端に安ければ日本国内のデフレが悪化する」と輸入デフレ論を認める発言をしているのだが…)

彼らが輸入デフレ論を否定する論拠として、
・日本は他国に比べて輸入依存度(GDP、経済全体に占める輸入の割合)が低い
・日本よりも中国製品等の安価な海外製品の輸入割合の高い国がデフレになっていない
という点を挙げて説明している。

日本の輸入依存度が低いのはその通りである。ついでに、日本は輸出依存度も低いため、リフレ派が大好きな「マンデル・フレミング理論(通貨高による輸出減少懸念論)」も杞憂に過ぎないと指摘しておく。

だが、それは輸入デフレ論を否定する論拠とは言えない。
筆者の取引先企業でも、元請け企業から、中国製品との価格差を盾に強引な値下げ要求を受けた例は枚挙に暇がない。
グローバル化の美名の下に、あらゆる業種が国際競争に曝され、新興諸国のバカげた労働単価水準が、国内企業に対する都合のよい脅し文句に使われている。

こうした影響は、決して製造業だけに限らない。サービス業とて、事務処理工程を丸ごと海外企業に持って行かれた、なんていう例はいくらでもあるし、他社の製造拠点の海外流出に伴い、そこと取引していたサービス業の需要が減り、それが国内他社との価格競争に拍車を掛け業績不振や内需圧迫要因となる、といった2次的3次的被害も起こっている。

また、中小企業白書や商工団体の経済分析資料にも、安価な輸入品の流入に伴う価格競争により、中小企業・小規模事業者が大きな被害を受けた実態が数多く報告されており、輸入デフレが内需の縮小を誘引し、実体経済に大きな影響を与えていることが窺える。

「日本よりも中国製品等の安価な海外製品の輸入割合の高い国(輸入依存度の高い国)がデフレになっていない」という説明も支離滅裂だ。
そもそも、輸入依存度が高いということは、国内の生産力や供給力が脆弱であるという事実の裏返しであり、インフレへの耐性が弱い、つまり、デフレになりにくい、というだけのことである。

件のブロガーは、輸入依存度が高い国(香港やシンガポールなどの特殊な国を除く)として、マレーシア、ハンガリー、タイなどを挙げているが、独自の生産力や技術力を持たないインフレ懸念国ばかりで、そもそも、こんな国がデフレになろうはずがなく、輸入デフレ否定論の論拠として不適当だろう。

最後のまとめに、リフレ派の十八番である「個別価格&一般物価中立論」について、その誤りを指摘しておきたい。

人々が消費するに至るには、
①購入したいモノやサービスがあること
②購入しようとするモノやサービスの価格が適正な価格の範囲に収まっていること
③購入するだけの資金を保有していること(支払い能力があること)
④今後も安定した所得が見込めること
という条件整備が前提になると思う。(浪費癖のある人は②~④をすっ飛ばしてしまうが…)

ましてや、長引く不況に喘ぐ我が国の国民の多くは、所得の低迷に悩まされており(サラリーマンの平均年収はピーク時と比べて▲12%)、③④の条件が満たされていない。
しかも、昨今の生活物資の値上がりや実質値上げ(内容量減少など)により、②ですら満たされないケースも増えている。

かような経済環境下で、牛丼の値段が80円下がったから、余ったお金でガムでも買うか、なんていう呑気な者はそうそう居るものではない。
ディマンドプル型のインフレ経済下で、国民の所得が安定的に漸増状態にあり、フロー・ストックともに潤沢な状態にでもなれば、人々は、余ったお金を、先を争って消費しようとするだろう。

だが、現実は全く逆の状態であり、人々は、一円も無駄にすまいと吟味に吟味を重ねて消費しようとし、余ったお金は、たいがい、貯蓄に回るか、財布に退蔵したままになるだろう。

ニッセンが30~40歳代の女性を対象に行った調査(H24/6)では、全体の83%が節約に興味があり、半数以上が月に1万円以上節約したい、と回答している。

また、余ったお金の使い道に関して、住信SBIネット銀行が行った調査(H21/12)では、「貯蓄・投資」にまわすという回答が58.5%と最も多く、「住居費(ローン返済)」という回答も5.9%あった。
さらに、パドコーポレーションが行った調査(H20/6)でも、「貯金」という回答が77%(複数回答)と最も多かった。

かように貯蓄好き(というより、“必要に迫られて貯蓄せざるを得ない”と言った方が適切かもしれないが…)な日本人が、余ったお金をぱっぱと全部使ってしまうなんて、現実にはあり得ないのだが、リフレ派の連中は、「感度の高い経済人」をモデルに理論構築し、現実よりも持論を優先させようとするためか、こうした事実を受け容れようとせずに空理空論を撒き散らしている。

彼らの「個別価格&一般物価中立論」が、空想上の世界から脱して現実世界で認知されるようになるには、大規模かつ長期的な財政金融政策を実行して実体経済を刺激し、そこで生じる富の漏出を防ぐための資本移動や労働規制等の強化が不可欠になるだろう。

しかし、頑固かつ管中窺天な彼らが、それを理解できるようになる日が来ることはあるまい、と諦めている。