うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

自覚症状のない「途上国病」

8月28日付けの日経新聞に、インドネシアのバンバン財務相へのインタビュー記事が載っていた。
記事の中で、バンバン財務相は、素材の加工や製造業など下流産業の誘致を強化すること、そのために法人税の一時免除の対象拡大や期間の延長を図ることなどを力説している。

これまで、ニッケル製錬等の基礎金属や通信機器製造など5分野に限られていた法人税一時免除の対象分野に、新たに4分野を追加するというもので、経済特区内の工場投資や造船、農水産品の加工業も対象にするそうだ。
また、最長免除期間も10年から20年へ延長するそうだ。(「一時」と言いつつ20年も免除なんて、気前が良すぎるのでは???)

“海外資本の積極的な誘致”、“そのための優遇措置や規制緩和”なんて、日経新聞の大好物で、早速、“日本もインドネシアを見習うべし”とでも言わんばかりに、ご丁寧にも、記事の概要版を1面に載せた挙句に、インタビューの英文をネットでも公開している。

今回、インドネシアが思い切った海外資本の誘致に注力するに至った背景には、急激な通貨安による貿易収支の悪化と最大の貿易相手国である中国経済の変調があるとされている。

多くの新興諸国と同様に、インドネシア経済は、成長率を凌駕するインフレに悩まされ続けているが、肝心の生産力がいつまで経っても独り立ちできないため、こうした状況が改善する兆しはない。

インタビュー記事と筆者が調べた内容から、インドネシア経済の概況や政策は、次のようなものだ。
・輸出商品は石油や天然ガスなど低付加価値のコモディティ中心、資源価格下落の影響により貿易収支が悪化
中国経済の変調や米国利上げ観測の影響を受けてルピアが急落(2012年比で5割近く下落)
・自国製造業に競争力が備わっていないため通貨安ボーナスを活かし切れない
・輸出が減退し、外貨獲得よりもインフレのデメリットが先行し、為替のバランサー機能が破壊されている
・ここ3年のインフレ率は6.4~6.7%と同時期の経済成長率(4~5%)を上回る
・通貨安には中央銀行による国債買入などの介入で対抗する
・企業の税優遇措置を拡大し、外国資本による製造業の誘致を急ぐ

インドネシアが陥っている状況は、まさに、ダメな新興国の典型例と言え、1998年に起こったアジア通貨危機から一歩たりとも進歩していない。

バンバン財務相は、輸出競争力に劣る自国の製造業の現状に焦りを覚え、外国企業誘致のための税制優遇措置に前のめりになっている。

だが、異様とも言える優遇措置は、国内産業と外国企業との競争条件を著しく阻害し、ただでさえ資本力に勝る外国企業にシード権を与えるに等しく、両者間の格差を益々拡大させることになるだろう。
恐らく、製造業の外国企業依存度が高まる一方で、国内企業の淘汰がさらに進んで国家全体の産業競争力は低下せざるを得ない。

輸出できるのは、価格変動リスクの高い石油や天然ガスのようなコモディティ商品だけで、高い付加価値を産み出すはずの製造業は外国企業に無料(税の免除)で場所貸しするだけ。
自国に多大な所得と収益をもたらすはずのドメスティック企業は、無料で長時間居座るタチの悪い客(外国企業)に淘汰されるばかり。
そうなってしまえば、2億5千万人もいる自国民をどうやって食わせていくつもりだろうか。

実際に、バンバン財務相はインタビューの中で、自国内に進出した日系の自動車メーカーが、鋼材を日本から輸入するばかりで、自国の国営製鉄企業の製品を購入しないのはおかしい、と逆ギレ気味に語っている。
これは、単にインドネシアの国営製鉄企業の生産する鋼材の品質や供給体制に問題があり、買いたくても買うレベルに達していないだけだと思うが、外国企業への優遇ばかりで自国産業の育成が後手に回り続ける悪弊を放置したままでは、地元調達率が上がるはずがなかろう。

最後に、今回のインタビュー記事を読んで、ズッコケそうになったのは、中国との関係に関するバンバン財務相の発言だ。
財務相は、自国の貿易収支悪化の主要因が、中国需要の減少による資源価格の下落にあることを認識しながらも、「元とルピアの直接決済貿易を推進したい」とか「元建て国債の発行も来年には検討作業を始めたい」と述べている。

経済の不調が鮮明となり、先行きの見通しも相当ネガティブな中国経済の回復に淡い期待を抱く様は、負けを取り戻そうと必死の思いで台にしがみつくパチンコ中毒患者を想起させる。

そればかりか、あろうことか、元建て国債を発行するなんてバカげた発言まで飛び出す始末で、呆れるよりほかない。
ただでさえ自国通貨が不安定なのに、対元の変動リスクまで抱え込み、自国通貨の自主性まで棄損しかねない悪手に手を染めるとは、愚かとしか言いようがない。

彼らは、ドル建て資金を引上げられて大混乱に陥ったアジア通貨危機の教訓から何も学んでいないようで、蓋の空いた地獄の窯に、再び足を突っ込もうとしている。

今回採り上げたインドネシアばかりでなく、多くの新興国や途上国が、通貨安と国内資金の不足による“お約束の失敗のループ”を繰り返さざるを得ないのは、性急に結果を求めすぎるあまり、
・自国産業の保護育成
・技術革新やサービス力の向上のための不断の努力
・国内産業や国民への資金還流
・教育、勤労、貯蓄、納税という社会基盤の構築
という時間もカネも掛かるステップをすっ飛ばして、手っ取り早く海外から必要な資本や資金、技術などを引っ張り込んで楽をしようとするからだろう。

現在、安倍政権と与党は、縮小する国内経済に見切りをつけて、成長する海外市場(本当に「成長」できるのかどうか怪しいものだが…)を取り込むと意気込み、海外資本には「外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束」という幼稚なお約束を呈示して対日直接投資の呼び込みに励む一方で、国内企業には消費増税と緊縮財政、企業の新陳代謝(ゾンビ企業退治)という名の鞭を以って対峙しようとしている。

このまま、海外資本誘致と規制緩和による新自由主義的政策が続けば、国内産業は衰退の一途を辿り、先に示したような「重度の途上国病」を患ってしまう日が遠からず訪れるだろう。
一旦、途上国病に罹ってしまうと、完治できる保証はなく、悪くすると、誰とも戦火を交えることなく『第二の敗戦』を迎えることになりかねない。

他国と比べて高度レベルな技術力やサービスの供給力という国富が残っている今のうちに、国内産業の保護と養成に全力を注ぐべきだろう。