うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

『攻めの農業』の行く末は『攻められるだけの農業』

いわゆるアベノミクスの三本の矢のうち「第三の矢(成長戦略)」が、日本の社会基盤や経済基盤を壊死させる毒矢であることは、すでに様々な識者から多くの指摘を受けている。

しかし、そういった重要な指摘は、ここ20年来の改革病に侵された国民の耳には一向に届いていない。

その際たる事例の一つは、何かと批判の多い農業問題だろう。

安倍首相は、平成25年5月に行った成長戦略に関するスピーチで、攻めの農林水産業こそ成長戦略の柱の一つだと明言した。

その要旨は次の3点だ。

①今後10年間で6次産業化を進める中で、農業・農村全体の所得の倍増を目指す

②農林水産物・食品の輸出額を2020年までに1兆円へ拡大させる

③現在1兆円の6次産業化市場を10年間で10兆円に拡大させる

(そもそも、6次産業化市場が1兆円もあるのか、極めて疑問だが…)

要するに、輸出拡大と6次産業化で農業を成長産業化させようということだが、昨今の「輸出信仰」や「サプライサイド信仰」に染まり切った国民なら、コロッと騙されそうなキラーワードを二頭立てし、正面突破を図るつもりのようだ。

この「6次産業化」という言葉は、鳩山政権辺りからよく使われるようになった政策用語で、『自然エネルギーや農林水産物など、農林漁業者が生産(1次産業)と加工・販売(2次・3次産業)を一体的に行ったり、地域資源を活用した新たな産業の創出を促進したりすることにより、儲かる農林水産業を実現し、雇用確保と所得向上を目指すこと』と定義されている。(1次+2次+3次=6次化)

端的に言うと、農業者が製販部門も手掛けて(あるいは、外部の事業者と連携して)、原料供給だけに止まることなく、より高付加価値な商品を提供し、所得向上を目指そうという趣旨で、より判りやすく例えると、トマト農家がトマトジュースやトマトドレッシングを加工販売するようなイメージだ。

農水省では、6次産業化促進のため、農林水産漁業者の取組みを後押しするための計画認定(6次産業化総合化事業計画認定)と補助メニュー等を(形式上)用意している。

この総合化事業計画は全国で2056件認定され(今年2月時点)、補助メニューとしては、6次産業化ネットワーク活動交付金なる助成制度がある。

一見華々しいイメージのある6次産業化だが、その実態はお粗末なものだ。

先の総合化事業計画で認定された事例を見ても、農家レストランやニンジン・ジャガイモ等の一次加工(皮むきやカット)、ジュースやジャムづくり、食肉加工程度の取組みが殆どで、別に農業者がやらなくても、既存の事業者で十二分にカバーできそうな取組みばかりなのだ。

また、経産省が進める農商工連携(どちらかというと2次・3次事業者が主役の取組み)との縄張り争いで、農水省経産省との間で案件の奪い合いも生じている。

実際に関係者へヒアリングしたところ、計画認定を受けた取り組みの中で、軌道に乗っているのは数%にも満たないそうだ。

農家が作ったジュースやジャムなんて、珍しくもないし、味付けもいい加減なうえに価格も高いのが相場だろう。

農家は作物を作るのはプロでも、その加工に関してはド素人に過ぎないので、衛生管理も杜撰で、大量のロットの受注にも対応できない。また、本業である農業との両立が時間的にも、体力的にも不可能なのだ。

つまり、農地の横に直売店でも作り、そこでの店先販売や近隣の道の駅程度には卸せても、大手の流通ルートに対応できる製造能力を得ることなどまず不可能で、10年間で10兆円規模に市場を拡大させるなんて絶対に無理だと断言できる。

加えて、総合化事業計画に認定された場合の唯一のメリットと言っても過言ではない6次産業化ネットワーク活動交付金にしても、全体予算は23億円程度で、補助上限が1億円だから、年間の助成対象はせいぜい20~30件程度のものだ。

しかも、農業者単独での取り組みは対象にならず、助成率も1/2から1/3に減らされるなど助成要件は厳しくなる一方だ。

しかも、細かい機械の購入にも厳格な入札手続きが要求されるなど、小規模な農業者にとってはバカバカしいほどの余計な事務負担が課される。

つまり、支援制度はあっても、それが殆ど使い物にならないのが実態なのだ。

もう一点の「輸出拡大」にしても同じこと。

わざわざ高い輸送コストを掛けて、バカみたいに安い現地の農産物と競争して体力を消耗してもコスト倒れに終わるだけだ。(現地の役人への袖の下もバカにならない)

農産物の輸出成功事例として有名な、北海道十勝地方の「川西長いも」とて、年間輸出総額は、やっと10億円に届こうかという程度のものに過ぎない。

ただでさえ高価格な国産品の輸送コスト削減に汗をかくよりも、“美味しいものを喰いたければ日本に来い”とインバウンド対策をする方が、国内に落ちる外貨も増え、遥かに有益だろう。

空理空論で農林漁業者を煽っても、彼らに余計な投資負担を強いるだけで何の益も生み出すことはできない。

農林漁業者の所得向上を謳う一方で、彼らの生活基盤を破壊するTPPを推進して梯子を外そうとするさまは、まさに背信行為と言える。

実際に、TPPを恐れて、事業承継や設備投資に消極的になっている農林漁業者の声を多く聞いている。

「大型トラクターの更新時期だけど、TPPによる減収が怖くてとても借金する気にはなれない」、「息子に農業を継がせたいけど、TPPが始めると食っていけるか不安でならないから都会の企業に就職させた」などという生の声に耳を傾けるべきだ。

TPP交渉が妥結したわけではないが、こうした負のアナウンス効果の威力は絶大で、ただでさえ問題になっている農林漁業者の後継者問題にも暗い影を落としている。

政府は、後ろから銃を構えて、攻めの農林漁業だと鼓舞(威嚇)しているが、実際には、TPPに備えて6次産業化に取り組もうとする勇者よりも、それに怯えて殻に閉じこもる弱者の数の方が圧倒的多数なのだ。

政策というものは、一部の強者のメリットのためにやるべきものではない。

構造改革臭の強い輸出振興や6次産業化促進策の本質は、農林漁業者を既得権益者と決めつけ、彼らに自助自立を強いる点にあり、怠け者の農林漁業者の根性を叩き直して出稼ぎでもさせようというノリに過ぎない。

本当に、農林漁業者の経営基盤を強化するつもりなら、実現性や継続性に疑義のある海外市場マターの経営戦略を押し付けるのではなく、足元の国内市場を強化する方が、遥かに早道かつ確実だろう。

適切な経済政策により国民の所得を増やして、まずは国民が安全かつ美味な国産品を存分に味わうことができれば、農林漁業者としても低コストで高品質な産品を出荷でき、その懐も潤う。

こうした両者にとっての継続的なWin-Winの関係を成立させることが、日本の食糧安全保障の根幹につながる重要なポイントだと言える。

“成長するアジアへの輸出”なんて、その余りを廻しておけば十分だ。

日本の美味しい農林水産物が食べたければ、黙って高い輸入品を買うか、高い旅費を掛けて日本に喰いに来させればよいだけだろう。

周囲を気にするのではなく、自国や自国民の利益を第一に考えて行動すべきだ。