うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

格差問題の元凶は階層間闘争にあらず

安倍晋三首相は29日の衆院予算委員会で、経済格差への対応について、来日中の仏経済学者トマ・ピケティ氏を引き合いに、「基本的には、(経済格差を専門とする)ピケティ氏も成長は否定していない」として、富の再分配だけではなく、成長に向けた政策を重視すべきとの認識を示した。長妻昭衆院議員(民主)の質問に答えた。

長妻氏が経済格差への認識を尋ねたのに対し、安倍首相は、「これまで日本の格差に顕著な拡大はない。ピケティもしっかりと成長し、その果実がどう分配されるかということが大切と言っている」と主張。(129日付け産経新聞記事より抜粋)』

 

この記事の中で産経新聞は、「(安倍首相は)アベノミクスの推進で経済成長を目指すことが、格差解消に向けた前提条件との立場を強調した」と解説しているが、安倍首相の本心はそうではあるまい。恐らく、首相は、経済成長にも格差解消にも、ほとんど関心を持っていないだろう。

 

記事の前段で、首相は、長妻氏の質問に反論する形で、ピケティは経済成長を否定していないと述べたそうだが、そんなことは当たり前だろう。ピケティが経済成長を否定していないなんて、著書を読まずとも誰にでも理解できるはずだ。

普段から、経済的な格差解消のための再分配政策と経済成長を目指す政策を両立しえないものと考えているからこそ、慌ててこんな発言が口をついて出てくるのだろう。

ピケティどころか、まともな経済学者(これが実に少ないのが大きな問題なのだが…)なら、そもそも、格差解消と経済成長の関係を別々に捉えたり、両者をトレード・オフの関係に置いたりはしない。

再分配か、経済成長かといったバカげた発想をするのは、構造改革好きの緊縮財政論者かリフレ派(+共産党員)くらいのものだろう。

 

また、安倍首相は、アベノミクストリクルダウン理論に関する質問に対して、経済界に賃上げを働きかけていることを強調し、「上からたらたら垂らしていくのではなく、全体をしっかりと底上げしていくのが私たちの政策だ」と語ったそうだ。

 

確かに、安倍首相は、たびたび経団連に賃上げのプレッシャーをかけ、今年の春闘では大手企業を中心にベアの容認につながるなど一定の成果を上げており、その姿勢自体は評価できる。

厚生労働省4日発表した平成26年の毎月勤労統計調査(12月速報、従業員5人以上の事業所)によると、基本給や残業代、賞与などすべての給与を合わせた1人当たりの現金給与総額は、月平均で前年比0.8%増の316694円と上昇しており、アベノミクス初期段階の経済効果が波及した結果と言ってよいだろう。

 

しかし、物価の影響を織り込んだ実質賃金指数は2.5%減と3年連続のマイナスであり、賃金は上昇したものの、伸び率が昨年の消費税増税や円安による物価上昇に追いつかない状況が続いており、“全体をしっかり底上げしていく”どころか、地盤沈下を起こしている。

 

国民はバケツの底を割られて、汲んだ水の量以上の漏水に悩まされている。収入以上に出ていくマネーの量が増えているから、実質賃金の低下に歯止めが効かず、不安に駆られた国民は消費にブレーキを掛けざるを得ない。これが、“インフレ期待”とやらが一向に出現しない要因にもなっている。

 

安倍首相の経済政策は、初動段階を除きアクセルとブレーキの両踏みが続いているが、日を追うごとにブレーキ優先の度合いを強めている。

確かに、アベノミクス初年度の10兆円規模の補正予算と異次元金融緩和政策を打った効果により一部の雇用改善や所得向上の動きが確認できる。

 

そうした経済成長の芽を拡大させることに専念すればよいものを、何を勘違いしたのか、その後は、せっかく萌芽した芽を摘み取るような政策ばかり打っている。

消費税増税、TPP、聖域なき支出削減、労働規制緩和、農協改革、社会保障改革、ホワイトカラーエグゼンプションなど、孵化しそうな卵に冷水をぶっかけるような苛政を続々と並べ、それに反対する声が上がると、初期の経済政策の成果を持ち出して、アベノミクスで経済は持続的な回復基調にあると称し、それらを免罪符代わりに使おうとしている。

初回に打ったヒットを盾に、中盤で大量点を招いたエラーや失投を見逃してくれと強弁するようなものだ。

 

安倍政権だけでなく、橋本政権や小泉バカ政権以降の政権や与党の連中が、なぜ、経済成長を阻害するブレーキ政策ばかり踏みたがるのかは解からない。

常識を理解できない変わり者の心情は計り知れないが、財政破綻に対する懸念、構造改革規制緩和へのシンパシー、グローバル化に対する異様な信仰心、偏狂的な自助思考などいくつもの要因が考えられる。

筆者は、これらのほかに格差解消に対する彼らなりの恐怖心もあるのではないかと推測している。

 

格差解消を、フランス革命ロシア革命みたいに富者が引き摺り下ろされ、その富が民衆に収奪されるかのようなイメージで捉えているのではないか。

格差解消に異様な執念を燃やす者とそれを極度に恐れる者は、格差解消という言葉を誤解している。

両者とも「格差の解消=1mmたりとも差が生じないフラットな社会」だと信じ込み、片や上の階層にいる者を引き摺り下ろそうとし、もう一方は庶民のルサンチマンを恐れ一瞬の隙も見せまいと防御を固めようとする。

互いに、相手に対する不信感や敵愾心が異様に膨れ上がり、一切の交渉や妥協に応じようとしない。

 

格差解消に向けて、富裕層の所得や資産に対する多少の課税強化は避けられないが、何も、その富を収奪するような暴挙に出る必要などない。

格差拡大の病巣は、富裕層への富の集中のみにあるのではなく、中間層以下の階層の所得や資産の減少にこそある。

 

ピラミッドの上層部が重たくなるのがいけないのではなく、中層部や下層部が貧困化の危機に晒されて瓦解しかかっていることこそが重大な問題なのだ。

経済のパイの拡大を否定し、上層部にある石垣を中層部や下層部に降ろしたところでピラミッド全体が大きくなるわけではない。

正当な手段によるものである限り、富裕層が富を得ることを否定する必要はない。

そんなことに関わりなく、中層部や下層部が十分な所得や富を得る機会を増やせるよう適切な経済政策を実行すればよいだけだ。

経済のパイが増え各層に十分な所得が行き渡れば、富裕層に対する妬みや敵愾心など消えてしまうだろう。

 

政権担当者のみならず多くの国民は経済のパイが一定だと勘違いしているから、格差解消には富裕層から他の層への富の移転しか手がないと誤解してしまう。

それが富裕層に、「富や地位が収奪される」という恐怖感を抱かせ、格差解消に対する忌避感や嫌悪感を招き、ピケティの格差解消論をあたかも自分の富や地位を脅かしかねない「黒船の襲来」だと勘違いさせている。

 

経済を成長させ、そのパイを拡大することが、無用で有害な階層間闘争の鎮圧につながるだろう。

 

 

 

(※)

28日(日)に「進撃の庶民」にコラムが掲載されます。

他の執筆者の方のコラムと併せて、ぜひご覧ください。

http://ameblo.jp/shingekinosyomin/

 

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