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うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

教科書に逃げ込まず、現実を直視せよ!

今月に入ってから、ギリシャの政情不安や原油安による世界的な株安が起こり、株式市場から逃避した資金が安全資産の国債になだれ込んでいる。

この影響で、世界最強の安全資産である日本国債も新発10年物の流通利回りが初めて0.3%台を割り込んでしまった。(この原稿を書いている16日時点での利回りは0.285)

 

日本国債は、スイス国債と並ぶ「超安全資産」として地位をまたもや高めたわけだが、国内の民需低迷や日銀による異次元金融緩和の影響を勘案すると、当面は低水位の金利水準が続くだろう。

 

このように異次元金融緩和政策は、低金利誘導という重要な役割を見事に果たしているが、その本分である「インフレターゲット政策」の効果はどうなっているのか。

 

インフレターゲット政策の理論的支柱であるP.クルーグマン教授は、かつて自身の論文で、「中央銀行が無責任になる(ある程度の将来までは高いインフレ率を許容する)という約束が、民間部門から信用される」ことが、期待インフレを生み出す条件だと述べていた。

そもそも、一国の金融政策のみでインフレを創出できるか否かという点に疑問があるが、百歩譲って金融政策がインフレをもたらすとして、人々がそれを歓迎する(期待感を抱く)のか、嫌悪する(不安感や恐怖感を抱く)のかは、財布の中身や将来の収入見通しなど、各人の置かれた経済環境により異なるだろう。

 

現在の日本は、アメリカの金融緩和縮小による円安や増税などの影響を受け、コストプッシュ型の物価上昇に見舞われている。

所得がたいして伸びない(減っている人も多い)中での諸物価高騰という最悪の事態に直面した国民は、現状をどのように捉えているのだろうか。

 

以下、前々回のエントリーでも採り上げた日銀の「生活意識に関するアンケート調査(20149月調査)」の結果を下記のとおり示し、その内容について論じてみたい。

(3ヶ月ごとに実施,全国の満20歳以上の個人,標本数4,000/有効回答者数2,135,郵送調査 ※一部筆者が加工)

 

[景況感]

〇現在を1年前と比べて(3月調査→6月調査→今回調査,以下同じ)

 ・景況感D.I(良くなったー悪くなった) ▲6.4→▲10.0→▲20.4

1年後を現在と比べると

 ・景況感D.I(良くなるー悪くなる) ▲16.5→▲15.3→▲20.8

 

[現在の暮らし向きについて]

 ・暮らし向きD.I(ゆとりが出てきたーゆとりがなくなってきた) ▲33.5→▲39.8→▲44.1

 

[収入]

〇現在を1年前と比べると

 ・収入D.I(増えた-減った) ▲29.8→▲30.0→▲32.5

1年後を現在と比べると

・収入D.I(増えるー減る) ▲29.4→▲27.5→▲32.3

 

[支出]

〇現在を1年前と比べると

 ・支出D.I(増えた-減った) 18.125.123.7

1年後を現在と比べると

・支出D.I(増やすー減らす) ▲43.3→▲43.7→▲44.0

 

[物価に対する実感]

〇現在の物価を1年前と比べて

・かなり上がった+少し上がった 69.3%71.3%80.4%

1年後を現在と比べると

・かなり上がる+少し上がる 79.9%80.6%82.5%

 

[物価上昇についての感想]

・物価上昇D.I(好ましいー困った) ▲74.5→▲74.4→▲74.8

 

[物価に対する実感の根拠]

〇現在の物価に対する実感(複数回答)

 ①頻繁に購入する品目の価格動向から 73.4%

 ②ガソリン価格の動向をみて 68.1%

 ③定期的な支出項目(家賃,光熱費等)の価格の動向から 39.7%

 (最下位)日本銀行の金融政策から 3.8%(前年同月比▲1.8ポイント)

5年後の物価に対する実感(複数回答)

 ①頻繁に購入する品目の価格動向から 60.0%

 ②ガソリン価格の動向をみて 50.0%

 ③定期的な支出項目(家賃,光熱費等)の価格の動向から 35.9%

 (最下位)日本銀行の金融政策から 11.1%(前年同月比▲3.7ポイント)

 

[日本経済の成長力についての見方]

 ・成長力D.I(高いー低い) ▲35.2→▲42.8→▲46.2

 

日本銀行の金融政策に関する認知度]

〇消費者物価の前年比上昇率2%の物価安定の目標について(インフレ目標)

 ・知っている 28.3%26.2%26.7%(前年同月比▲10.2ポイント)

〇量的・質的金融緩和について(異次元金融緩和)

 ・知っている 23.2%28.3%24.8%(前年同月比▲4.6ポイント)

 

上記の調査結果から言えることは、

アベノミクスの効果は限定的で、収入が減ったと感じる人が増えている

②一方で、増税や物価高によって強制的な支出増を強いられている

③その結果、景況感が悪化し、暮らしぶりが苦しいと感じる人が増えている

④日本の成長力に対する見方は極めてネガティブである

⑤日銀のインフレ目標や金融緩和政策を知っている人は少なく、その意義や内容も理解されていない

⑥普通の人は身近な品目や支出項目によって物価見通しを立てるもので、日銀の金融政策なんて誰も関心を持っていない(=金融政策が直接的にインフレ予想を醸成できるという考え方は単なる幻想)

⑦リフレ派が夢想するような御大尽様(インフレ予想に基づき散財しようとする変わり者)は現実にはほとんどいない

⑧金融緩和政策は、一部の学者や市場関係者のオモチャになっているだけで、実体経済を改善する存在になり得ていない

ということだろう。

 

日銀は年間80兆円もの既発債を買い取り、国債保有高は200兆円を超えて公債残高の1/4近くに上る。国債の無効化(実質無借金化)の観点から、筆者はこの量的緩和政策を是とするが、財政再建にしか興味を持てない家計簿論者の視点からは、既に、クルーグマンが評する無責任な中央銀行の姿に変貌していると言ってもよいだろう。

しかも、金融政策単独では力不足であったものの、アメリカの金融政策見直しによる円安や消費税増税という援軍を得て、日銀の思惑どおり物価上昇に向けた舞台装置は揃いつつある。

 

だが、現実には、リフレ派が自信満々に唱えるような「(プラスの意味での)インフレ期待」は出現していない。

上記の調査結果のとおり、物価上昇を見通す人々が取ろうとする行動は、「期待に基づく支出の拡大」ではなく「不安に基づく支出の縮小」なのだ。

実際に収入が増えたと感じられる人は極めて少数(調査では1割未満)であるうえに、コストプッシュインフレにより予期せぬ支出を強いられているのだから、支出を減らそうとする割合が増えるのは当然だろう。

 

インフレを見込んでモノが高くなる前に買っておこうと言えたのは、名実ともに賃金が上昇していた昭和期ならではの旧き良き慣習であり、20年近くも収入減に悩まされた平成の世にはもはや通用しない。

いまだにインフレ期待による民需の盛り上がりを確実視するのは、思考が昭和の価値観に染まったまま夢の世界に安住する周回遅れの連中だけだ。

 

知識人ぶって経済学を語ったり、経済学の教科書云々と講釈をタレたりする前に、実体経済の仕組みや消費行動の基本を学び直した方が良いだろう。