うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

社会を支える原動力を大切に

JTB社員を業務妨害容疑で逮捕=遠足バス手配忘れ―岐阜県警

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140505-00000080-jij-soci

JTB中部(名古屋市)の男性社員が岐阜県立東濃高校(同県御嵩町)の遠足バスを手配し忘れた問題で、同県警可児署などは5日、同校に遠足中止を求める手紙を届けたなどとして、偽計業務妨害容疑で、同社多治見支店勤務だった城谷慧容疑者(30)=同日付で解雇、名古屋市千種区朝岡町=を逮捕した。同署によると、「間違いありません」と容疑を認めているという。逮捕容疑は424日、東濃高校の遠足に当たる「全校校外研修」を中止させるため、生徒を装い自殺をほのめかすような手紙を作成。同校に届け、教職員らに全校生徒317人の安否を電話で確認させ、業務を妨害した疑い。』

 

GW中に起こったこの事件をご存知の方も多いだろう。

誰が亡くなったわけでも、ケガ人が出たわけでもない小さな事件(高校の遠足が中止になっただけのこと)に過ぎないが、就職先企業の人気ランクの上位に常に顔を出す大手旅行会社の社員が引き起こした不手際、それも、自らの失敗を糊塗するために、生徒の自殺を仄めかすような脅迫文を自作するという稀有な事例であったためか、調子に乗ったバカマスコミが、事態を増幅して面白おかしく報道しているようだ。

 

この事件はインターネットのニュースサイトでも大きく採り上げられ、逮捕された30代の社員を蔑んだり、バカにしたりする書き込みで溢れている。

「なぜ、もっと早く上司に相談しなかったのか」、「自分の責任逃れのために生徒を巻き込むなんて許せない」、「こんなバカは逮捕されて当然だ」等々、完全に軽蔑しきった眼で彼の行動を罵倒している。

 

常識的に考えると、彼の犯した罪を正当化できないのは誰にでも判ることだ。

当日の遠足を楽しみにしていた生徒やその準備に奔走していた教諭たちの苦労、また、本件により業務上の損害を被ったJTBのことを思えば、それも当然のことと言える。

 

だが、いくら急な事態とはいえ、自らの失敗に気づいた彼が、それを上司に相談し、打開策を練るという行動を取れなかった理由や背景を確認しておく必要があるのではないか。

今回、手配ミスにより不足していたバスの台数は11台に及んだそうで、いくら業界で絶大な力を持つJTBといえども、時間も限られる中で右から左に軽く手配できる数ではなかったのだろう。また、長引く不況の影響で観光バス業界も疲弊しており、昔のように一声かければすぐにバスを手配できる状況でもなかったのだろう。

 

であればこそ、旅行を主催するJTBの組織としてのチェック体制をきちんと機能させておく必要があったのではないか。

事件を起こした男性社員個人の資質や不手際に全責任を負わせるのは、いかにも不公正で、まず問うべきは、自らの失敗に気づき愕然とする一社員が、なぜ即座に上司や同僚に相談できなかったのか、組織としてのリカバリー体制は機能していたのか、という点だろう。

ミスを犯した社員が、組織内に解決手段を求めるという当然の手段をすっ飛ばして、いきなり脅迫文をクライアントに送り付けるという暴挙に出た(出ざるを得ないまでに追いつめられた)背景をこそ検証すべきだ。

 

デフレ不況に端を発する人員削減により、筆者の職場でもそうだが、一昔前まで23人でやっていた仕事を一人で担当させられているようなケースは珍しくないだろう。ちょっとした管理職なら、プレイングマネージャーとして、あるいは、プレーヤー兼管理者として現場の切り盛りだけでなく、部下や後輩社員の管理監督役まで引き受けさせられていることだろう。(その割に給料は下がりっぱなしだが…)

一人のプレーヤーとして厳しい業務目標の達成に挑みつつ、業務方針の立案や管理業務、社内調整にまで駆り出され、ヘトヘトになっている方も少なくあるまい。

いまや日本企業の現場は、上から下まで、完全にオーバーフロー状態にある。50の器しかないところに100200の業務量を注ぎ込まれ、今日の仕事すらこなし切れず頭を抱えている方も多いだろう。

 

そんな激務の狭間でのふとしたミスは、誰にでも起こりうることだし、それを誰にも相談できず呆然として立ち竦まざるを得ない孤独な境遇に追い込まれることも決して他人事ではない。

他人のミスをあげつらい、それを嗤うことは誰にでもできる。だが、それが他人事で済まされる保障はどこにもない。

どうしようもないバカな奴だと蔑んだ相手の立場に、明日、自分が立たされるかもしれないのだ。その時になれば、かつて嗤った相手の心情は如何ばかりであったかとイヤでも考えさせられるだろう。


世の中に仕事は多くあれど、ちゃんとやって当たり前という業務ほど難しい仕事はない。

限られた人員や予算、納期などという制約の多い環境下で、誰もが期待する成果をきちんと出し続けるということは、想像以上に困難で苦労の多いことだ。

こうした地道で目立たないが、周囲から成果を当然視されるような業務は、千のうち三つも当たれば大成功というベンチャービジネスみたいにお気楽なものとは、科せられた責任感やプレッシャーは段違いだ。

多くの国民は、波乱万丈のベンチャー企業の創業者に深い興味を抱くだろうが、彼らの存在など、黙々と社会機構を支える人々の貴重さに比べれば、取るに足らないものだ。

 この社会は、多くの国民な地道な社会活動により成り立っているのだ。

筆者がこの原稿を書きながら飲んでいる一本の缶ビールも、原料の製造、運搬、容器のデザインや製造、商品の企画や販売、卸売業者、小売店舗ほか数えきれないほどの企業や人々の手を介して手元に運ばれてきたものだ。筆者が財布から小銭を出せば、ポンッと簡単に世に出てくるような簡単なものなど一つもない。

 

世の中にあらゆる物品やサービスは、多くの人々の不断の努力や勤勉さにより、世に生み出され、それらを求める人々に提供される。彼らの多くは、決して恵まれた待遇や処遇とは言えないが、自らの倫理観や使命感を原動力に、社会基盤を支え、社会機構を黙々と動かす役割を果たしている。

我々が普段から何気なく享受している技術やモノ、サービスは、目には見えない多くの英雄たちの手によって運ばれてくる。そして、今回逮捕された男性社員も、かつてはその一人だったのだろう。

 

長い時間が必要だろうが、前途ある、まだ若い彼が今回の失敗を乗り越え、今後の人生を実りあるものにしてくれることを切に願う。