うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

毒を飲まされたワニ

日本経済は、1990年代後半からデフレーション一般物価水準の継続的下落)に陥ったとされ、“失われた15年あるいは20年”などと言われているが、そんな中で日本の預金総額は、どういう動きをしてきたかご存知だろうか。

 

実は、この間に国内の預金は一貫して増え続けている。

 

国内銀行(都市銀行地方銀行第二地方銀行)の総預金高は、1999年に約470兆円だったが、直近のデータでは20135月末時点で約631兆円にまで拡大(日本銀行資料)しており、この14年間に161兆円、およそ34%も増加している。不況なのに預金が増えるなんて、と不思議に思う方もいるだろうが、事実はこのとおりだ。

 

一方、預金と言えば、その対極にあるのが貸出(企業や家計への融資)だが、こちらは預金とは逆の動きになっている。

国内銀行の総貸出額は1999年に約462兆円だったが、20135月末には約422兆円と40兆円余りも減っている。(2011年以降は若干増加傾向にある)

 

この預金と貸出との差額は「預貸差」と呼ばれ、経済状況を判断する重要な指標となる。

一般的に、経済状態が良好で企業や家計の投資意欲が強い時には、貸出(融資)への需要が増え、両者の差が小さくなり、逆に、投資意欲が減退する時期には両者の差が拡大する。

1991年から1998年頃まではこの預貸差が逆転し、いわゆる貸出超過の状態であった。

筆者が若手銀行員であったこの時期には、預金獲得競争がかなり過熱気味であったことを覚えている。

その後、金融危機騒動の余波を経て預金超過時代に突入したとはいえ、1999年に僅か8兆円に過ぎなかった預貸差は、2013年に209兆円にまで拡大してしまった。

両者の差は日本がデフレ不況に陥って以降、拡大のスピードが増し、2003年に初めて100兆円を突破すると、今年に入ってついに200兆円に達している。

しかも、これは信金・信組、農協、ゆうちょなどの数値が加算されていない数値であり、それを考慮すると実際の預貸差はさらに拡大する。

財政破綻論者が大好きな、いわゆる「ワニの口(歳出と税収差の拡大)論」と同じ現象が起きているということだ。

 

「預金が増えて貸出(借入)が減るなんて結構なことじゃないか」とお考えの方がいるかもしれない。個々の企業や家計の発想なら、それもよい。

だが、経済全体の状況をマクロな視点から捉えると、預貸差の拡大は放置できない問題なのだ。

 

預金の伸びに貸出の動きが追い付けないということは、企業や家計の投資意欲や資金需要が縮小しているということであり、ひいては投資の裏付けとなる「国内消費の落ち込み」を表している。つまり、景気の現状や先行きを不安視する家計や企業が委縮して消費や投資を控え、生活防衛のため、あるいは、企業体力蓄積のため、一斉に預金に走っているということになる。

 

預金とは、消費や投資に回されることのない余剰資金(=消費や投資の死骸)のことだから、預金が一方的に増えるということは、それだけ実体経済の消費や投資に回る資金量が減ることを意味する。つまり、企業の売上低下や家計の収入削減に直結するのだ。

 

日本の経済活動の総量を示す名目GDP国内総生産)の推移を見ると、このことがよく判る。

GDPを構成するのは国内の消費や投資の総額(+純輸出=海外の消費)だが、1999年に504兆円あった名目GDPは、2012年には475兆円にまで落ち込んでいる。

これほど長期に亘り名目GDPを成長させられない先進国は我が国以外に存在せず、こうした体たらくの結果が、この預貸差にも表れている。

 

経済状態を計る指標としてよく知られているのは「金利」や「物価」で、これらは『経済の体温計』と呼ばれているが、この「預貸差」という一見地味な指標も、経済のコンディションを知るうえで重要な手掛かりとなる。

 

さて、まだまだデフレ脱却への光明が見出せない経済状況下で、世間では、またぞろ消費税増税論議が熱を帯びている。

 

旗振り役は、例のごとく財務省のバカ者どもと取り巻きのマスコミやエコノミストの連中で、812日に内閣府から発表された今年4-6月期のGDP成長率の速報値が名目値で+0.7%(年換算+2.9%)、実質値で+0.6%(2.6%)を示したことや同じく13日に内閣府から発表された4-6月期の機械受注統計(季節調整値)で民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力を除く民需」が前期比6.8%増の22999億円となったことをエサに、「景気回復の足取りは確かなものであることが確認できた」、「増税による景気の腰折れリスクは小さい」と増税断行の御旗を掲げての大合唱が続いている。

加えて、政界・財界に寄生する構造改革主義者や新自由主義者の世間知らずどもから、「社会保障改革は消費税増税が前提条件だ」、「これだけの財政赤字がありながらも日本の国債が信用を維持しているのは消費税の増税余地があるからだ」、「消費税増税国際公約で、公約破りは日本売りを招く」といったくだらぬ援護射撃もあり、消費税増税論議は増税派に有利な状況へ大きく傾いている。

 

消費税増税の声があまりに大きいため、政財界に僅かに残る増税反対派の声は掻き消されそうになり、増税派への妥協を口にする者も増えており、「デフレ脱却が確認できれば増税もやむなし」、「消費税増税1-2年先送りすべき」、「いきなり税率を5%から8%に引き上げるのではなく、毎年1%ずつ上げてはどうか」、「消費税引き上げ分を全て社会保障に充当するならやむを得ない」といった弱音も聞こえてくる。

 

だが、最近のエントリーでも述べたように、デフレ突入以降に日本経済が失った国富は莫大な額に上る。それらを取り戻すことなく、景気回復の芽がほんの少し頭をもたげたからと言って、経済破壊をもたらす公算が大きい逆噴射政策に安易に手を出すのは、国家に対する破壊行為にも等しい。

たかが四半期や1-2年間の経済指標が少々上向いたからと言って、遂にデフレ脱却だと狂喜するのは、過去を顧みようとしない痴れ者だと言える。

デフレを脱却してすぐに国民経済全体が改善されるほど現実は甘くない。

特に、疲弊し切った地方経済を治癒するには、財政金融政策を大規模に実行したとしても相当長い期間が掛かるだろう。

寒波と洪水に見舞われ水浸しになった荒野は、少々陽が差したからと言って直ぐに乾くものではない。

 

構造改革のバカ騒ぎに載ってデフレを放置してきたせいで、既に1520年も景気低迷が続き、他の先進諸国から大きく後れを取っている。

今回のGDP速報にしても、年換算(これも乱暴な指標なのだが…)で+2%台程度の実績で喜ぶようではレベルが低すぎる。他国では4-5%は当たり前で、二桁を超える伸びを示す国も珍しくない。

 

過去にはコンスタントに90100点くらい取っていたのに、間違った勉強法のせいで30点しか取れなくなった学生が、たまたま今回のテストで35点を取ったからと言って、 “学力向上への道筋はしっかりと確認できた、勉強を止めて遊びに行っても学力維持に問題はない”と安堵するようなバカ親がいるだろうか。(DQNアレントならやりかねないが…)

改善の絶対値が満足するレベルに到達していない限り、安易な妥協策を採るべきではない。

 

消費税増税論議など、名目GDP成長率が10年以上平均で5-6%を超え、物価上昇率が二桁に迫る勢いとなりインフレが深刻化し、再びバブル膨張の懸念が高まった時にゆっくり議論を始めればよい。

激しい干ばつに悩む田畑を前にして、いつ来るともしれない大雨による根腐れを本気で心配するバカどもに付ける薬はないが、この手の心配性の愚か者が政官財界に溢れ返っていることが日本病の病根の一つであることは間違いない

 

彼らは構造改革や緊縮財政で弱り切った日本経済に、またもやTPPや消費税増税という新たな毒薬を飲ませようとしている。

日本経済という死にかけのワニは、無理やり飲まされた毒を吐き出そうともがき苦しみ、ますます大きく口を開ける羽目になるだろう。


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