うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

現代の姥捨て山

85日の日経新聞に「増えぬ若者の起業」という記事が掲載された。

記事は(自分のことはさておき)若者のチャレンジスピリットが足りないことを嘆く、いかにも日経らしい内容で、要約すると次のようになる。

・政府の目標は、開業率を今の2倍に引き上げ欧米並みにすること。

・シニア世代や30-40歳代の起業意欲は強いが、20歳代の若者の意欲は低い。その理由は、若者の大企業志向が強いこと。夢があり養う子供もいない若者は本来起業の中軸のはず。

・日本政策金融公庫のデータでは、2012年の起業者29歳以下は9.8%1990年比5ポイントダウン)に過ぎない。

・政府の目標実現には若者の起業減少を止めることが必要だ。

・日本では起業のリスクが大きい。日本企業は新卒学生を優先採用するため起業に 失敗すると就職が難しい。

・起業を促進させる対策として、日本政策金融公庫の無担保・無保証融資(1,500万円)の元本返済据え置き期間を半年から1年に延長するほか、経営者による融資個人保証制度の改正を検討中。

・起業を促すには労働市場の流動化が欠かせない

 

また、81日付けの「中小企業振興(中小機構が発行する業界誌)」には、APEC中小企業サミット(78京都市にて開催)のセッションで日本のベンチャー企業の状況が堀場製作所の会長(自称ベンチャー支援の第一人者)などの有識者によって討議された様子が記事として掲載されていた。

その内容は次のようなものである。

ベンチャー育成に行政が多大な支援を投じたが、目立った成果を得られてない。

ベンチャーが育たない理由は「日本人のDNA」に起因する。日本人は何か新しいことをやることをあまり評価しない、ベンチャーが大企業に売り込みに行っても信用されず相手にされない。

・自分の子供がベンチャーを志した時に、家庭が心の底から応援できる家庭環境づくりが必要だ。

・企業内のベンチャースピリットを育て、日本人の生き方の価値観を変えるという本質の部分を見直すことが大事だ。

 

両者に共通するのは、若者のチャレンジスピリット不足を嘆き、ベンチャー企業に対する社会的な偏見を嘆いた揚句、日本の労働市場を流動化させろ、日本人の労働に関する価値観を変えろという結論に至る点だ。

これらの記事を通じて、彼らは本当に言いたいのはココなのだ。

彼らにとって、開業率が増えようが、ベンチャー企業が増えようがどうでもよいことで、契約社員派遣社員のような流動性の高い雇用形態の普及を促進させることや正社員を解雇しやすくするために雇用を流動化させることに真の狙いがある。

彼らが真面目な顔で起業問題を論じるフリをしているが、腹の底では、コストの高い日本人正社員を増やすなんてとんでもない、とはいえ失業して家でブラブラされて生活保護費が増えるのも癪だし、起業でもしてもらおうか、たとえ起業に失敗してもそれは自己責任だから、という程度の軽いノリなのだ。

起業だ、ベンチャーだと煽てるが、本音は態の良い口減らしに過ぎない。

 

自分で起業したこともないド素人は、いまの若者は大企業志向で起業リスクを嫌う、ベンチャースピリットがないと嘆くが、中小企業白書2013の資料(企業ベース)によると、バブル期からバブル崩壊後にかけての開業率は、198619913.5%199119962.7%20042006年の5.1%と比較してかなり低い。だが、当時は世の中が好況感に包まれ、若者の起業意欲が低いなどと嘆く声は全く聞かれなかったと記憶している。

当時若者世代であったはずの4050歳代の連中(筆者を含む)は、いまの若者はだらしないと偉そうな口を利くが、昔の自分はどうだったのか。バブル景気に浮かれてぬくぬくと大企業に就職しておきながら、他人には起業しろと言える立場か。

 

上記の日経の記事にあった「夢があり養う子供もいない若者は本来起業の中軸のはず」なんていう台詞は、まことに自分勝手な言い草で、死んでも嘆く身寄りのない若者は最前線の戦場で討ち死にしても構わないというのに等しいだろう。

こういう手前勝手な意見を吐くバカ者は、日本の大学進学率が上昇している理由や背景を理解できていない。

大学進学率は、昭和30年代に8%ほどであったが、順調に上昇を続けて2009年には50.2%に達し、2人に1人は大学に進学する時代になった。

個々の大学の学力レベル云々の話は置いておくとして、この事実は、何とか自分の子供たちに高等な教育を受けさせてまともな企業に就職させたいという親の切実な願いを反映したものに違いなかろう。

 

また、中小企業振興の記事には、自分の子供がベンチャー企業を志した時に親がそれに反対する空気を替えようなんて書いてあるが、これは非常におこがましい発想だ。

一説によると、企業の生存率は設立1年で40%5年で15%10年で6%に過ぎない。裏を返せば1年で60%5年で85%の企業が消滅の憂き目に合うということで、わざわざ高い学費を掛けて大学に進学させた我が子に、高確率のハズレ馬券を買わせる親などいないのは当然のことだ。

ベンチャー企業と言えば聞こえはよいが、給与の遅配、低レベルな福利厚生、独裁者や暴君のごとく振る舞うブラック経営者の横行など、新卒学生にお勧めできる就職環境とは到底言い難い。

 

また、政府は、起業対策としてすぐに融資制度の拡充に逃げ込むが、ベンチャー企業が上手くいかないのは融資が足りないせいではない。たんに売上が足りないだけだ。

ベンチャー礼賛者は、出資や融資制度さえ拡充すれば何とかなると勘違いしている者が多いが、この手のバランスシート至上主義者は経営のイロハを理解していない。

事業継続に重要なのは、貸借対照表よりも損益計算書であり、その最上位にある売上を確保することだ。売上こそが利益の源泉であり売上の絶対量を確保することなしに収益を確保することはできない。乏しい売上しかなければ、必然的にコストカット頼みの経営に走らざるを得なくなる。

日本は内需型産業が大半を占めるため、企業の売上を増やすには、内需を活性化させる必要があり、尤も有効かつ即効性が高いのは大規模な財政政策を長期に亘り実行することだ。これにより名目GDPが増えて企業活動も活発化し、ディマンドプル型の物価上昇の中で企業収益も改善される、こういった経済状況下でこそ起業環境も改善され起業後の生存率も高まるだろう。

 

長引くデフレ不況の影響で我が国の名目GDPは低迷を余儀なくされている。これは企業の商機が減少していることを意味する。パナソニックやシャープ、ソニーなど名だたる大企業でさえ経営改善に四苦八苦しているのだ。

国内の企業数も80年代後半から90年代初頭に約540万社あったものが、直近では約

420万社にまで減ってしまった。それだけ国内の経営環境が厳しい荒波に曝されて過酷になっているということだ。

 

冒頭の日経の記事やイベントのパネリストたちは、暴風が吹き荒れ大波が荒れ狂う海に敢えて漕ぎ出すバカ者がいないことを嘆いている。

自分は安全地帯から高みの見物を決め込み、他人の人生を賭けた壮絶な闘いをゲーム感覚で批評する卑怯者だ。

また、日本人のDNAにまで踏み込んで若者の起業意欲の無さを批判するが、不得意分野にムダなリソースを投じるよりも、得意分野を伸ばす方が大きな効果が得られやすいのは人材教育の基本だ。経営学の基本であるABC分析で、非重要品目の販売戦略に多大なコストを掛けることが経営の失敗をもたらすのと同じことで、長年経営者をやっていながら、そんなことも理解できないのだろうか。

 

彼らは良識も常識もない卑怯な傍観者だ。

それほど他人を起業させたいなら、若者をあてにせずに、まず自分でラーメン屋でも始めたらどうか。

消費のパイが減る一方で、競合相手が次々に参入する激烈な市場で勝ち抜くことがどれほど辛くリスキーなことかを身をもって体感すべきだ。

立場の弱い若者相手に偉そうな口を叩くのは、自分が起業を経験し成功してからにしろと言っておく。