うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

暗黒の時代への先祖がえり

「羊は、広い草原で放し飼いされるよりも柵に囲われて飼育される方が、ずっとストレスが少ない」という知られた例え話がある。

柵に囲われた羊は外界から遮断され一見不自由そうに見えるが、囲いや柵があるおかげで外敵から身を守ることができ、ストレスがぐっと減るそうだ。一方、草原での放し飼いは自由気ままに暮らせるように見えるが、そこに解き放たれた羊たちにとっては、常に外敵に襲われるかもしれないというストレスに晒されることになり、次第に身体が弱っていくという内容だ。

 

昨年末に政権交代を果たし、国民の大きな期待を背負って誕生した安倍内閣だが、発足当初こそ経済再生を唱えて、強力な財政・金融政策の発動を匂わせていたものの、いまやその可能性は風前の灯になりつつある。

「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略(これは余計な政策)」の三本の矢は、本来射抜くべき的を大きく外れて放たれようとしている。

第一の矢は漆塗りの立派な矢が用意され、黒田新総裁のお披露目の引き立て役として十分なアナウンス効果を得ることができ、若干足踏みはしているものの、一定レベルの株高・円安を演出した。

一方、第二の矢は、平成24年度補正予算民主党政権時の政策の焼き直し程度のもの)を以て強制終了させられ、今後自公両党が提出する国土強靭化法案にきちんとした予算付けができるかどうかも微妙な情勢だ。

名目GDPの底上げに最も効果的な第二の矢は、党や政権内部に増殖する財務省発の構造改革主義者たちに蔑ろにされ、どうやら爪楊枝くらいの大きさに削られてしまったようだ。

その構造改革主義者や新自由主義者たちが丹精を込めて磨きを掛けているのが第三の矢である成長戦略で、矢の素材を漆塗りからプラチナや黄金製にランクアップさせるべく、忠犬(マスコミ)を使った広報活動に余念がない。

彼らが目指すのは、消費税増税TPP規制緩和財政再建4つの柱である。いずれもデフレに苦しむ国民に塗炭の苦しみを与える下策なのだが、“成長戦略”という見栄えの良い衣を纏わせ、その醜い姿を覆い隠そうとしている。

 

昨日、安倍政権の経済財政運営の基本方針である「骨太の方針(この名前が既にいかがわしいのだが…)」の骨子案がマスコミ各社から一斉に報じられた。

現段階で詳細は不明だが、骨子案の目次は次のようなものだ。

第1章 デフレ脱却と日本経済再生

・停滞の20年からの脱却と回復の10年に向けた「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「成長戦略」の三本の矢

・三本の矢を支える財政健全化の実現

・企業から家計へ、雇用と所得の増加

第2章 強い日本、強い経済、豊かな生活の実現

グローバル化を取り込むなど成長戦略の設計

・攻めの農林水産業や中小企業の活性化などの地域再生

第3章 経済再生と財政健全化の両立

・財政健全化に向けた歳出の重点化、効率化を推進

目次を読む限り、デフレ脱却とか日本経済再生や雇用と所得の増加という文言が記されてはいるが、恐らく中身を伴うものではあるまい。むしろ、第2章や第3章に鎮座する「グローバル化、成長戦略、攻めの農林水産業財政再建化」こそが重要なポイントとなろう。なぜなら、それらの政策は構造改革主義者たちが大好きな4つの柱そのものであり、何よりカネがかからない政策だからだ。彼らが忌み嫌う財政政策をやる必要もなく、上から目線で“内向き志向では世界から取り残されるぞ、日本人は甘えている、もっと努力しろ”と(大前研一ばりに)威張り散らしていればいいのだから、これほど楽なことはない。

 

攻めの農業とか六次産業化なんて格好をつけたところで、所詮は野菜をシンガポール人に売りつけたり、農家のオヤジが畑の横に農産物の直売所を出す程度のもので、孫に与える小遣い稼ぎレベルの取組みに過ぎない。安倍政権は、農業所得を10年で3兆円増加させると意気込んでいるが、農業市場の開放にしか興味のない政策では、その目標を達成するのは絶対に不可能だ。

 

それにしても、首相官邸内閣府経済財政諮問会議、日本経済再生本部、産業競争力会議の連中は、仰々しい会議に雁首揃えて出席し、いったい何をやっているのか。

骨太の方針という名前だけかと思いきや、中身も小泉バカ政権時のくだらない構造改革路線とうり二つだ。この程度の方針案など目次を見れば十分で、中身を精査する必要もなかろう。どうせ、プロローグからエピローグまで財政再建規制緩和構造改革(+世界に打って出ろ)のオンパレードで、〆は消費税増税TPPできまりだろう。

そもそも、国家の成長戦略の策定作業を一部の官僚や民間議員に丸投げする政府の姿勢に疑問がある。政治主導云々と恰好の好いことばかり言っていないで、立法府、とりわけ与党議員をもっと働かせるべきだ。彼らの仕事は、国会での居眠りや街頭での演説ではあるまい。

 

冒頭の羊の例のとおり、一定の規制や障壁による適切な産業保護や競合緩和策がなければ、国内産業や家計の多くは厳しいストレスに晒され、徐々に体力を失っていくだろう。しかも、デフレは放置され、財政政策による需要創造も放棄された経済環境が続けば安値を武器とする海外企業や海外の労働者との競争に勝ち抜くことは不可能だ。

今回の骨太の方針の骨格案の内容は、羊を囲う柵を取り払うことばかりに熱心で、羊の健康を維持増進させようとする視点は皆無に近い。

 

現在、地方では、国家公務員の給与削減に引きずられて地方公務員の給与削減問題が大きな課題になっている。この件については、財務省サイドも地方交付税の削減を強行しようとしており、地方自治体も抵抗しようがない状況だ。だが、政令都市など一部を除いて、地方公務員の収入は地方経済に直結しており、地方公務員給与の削減は間違いなく地域経済の衰退をもたらすだろう。

一方で、対中国包囲網を形成すべく、安倍首相はミャンマーやアフリカ諸国を精力的に訪問し、数千億~数兆円単位の経済援助を約束した。環太平洋の北半分に、中韓鮮米露という無法者やクレーマーを抱える我が国にとって、それらの外周に友好国の輪を形成する努力が欠かせない事情は十分理解できる。その点、安倍首相の外交方針は的を得たものだと言えよう。

しかし、地方や家計に還流させる資金を削りデフレを放置したままで、グローバル化構造改革ごっこに目を晦ましていては、多くの国民から、外交に注ぐ熱意や資力の原資は、国内経済や家計を犠牲にして得られたものだと批判されかねない。現に、千葉や名古屋、美濃加茂、小平等の市長選挙自民党候補が相次いで敗北(候補者すら立てられないケースもある)しており、景気回復の芽すら見込めない地方の政権に対する気持ちは、期待や焦りを通り越して怨嗟に近いものがある。

構造改革を錦の御旗と勘違いして地方交付税のカットにうつつを抜かしていると、自民党参議院選挙で手痛いしっぺ返しを喰らいかねない。

 

7月の参議院選挙では、ワタミの会長が自民党比例代表候補として出馬するそうだ。このバカ会長は、ブラック企業の雄として著名なワタミの創業者であるばかりか、平成23年の都知事選では民主党から推薦されていた札付きの人物だ。こんな節操のない輩を推薦するほど、いまの自民党にまともな人物はいないのだろうか。こんな体たらくだからこそ、現政権に小泉バカ政権への先祖帰りを許してしまうのだろう。

 

先の政権交代直後には、安倍内閣は、参議院選挙までは経済再生一本に絞って安全運転するという見方が強かったが、安全運転どころか、コースを外れたまま前に進もうともせず、アクセルを踏むことを忘れブレーキの練習に余念がない。また、河野談話見直しやTPPの件でも妥協を繰り返し、戦後レジームからの脱却という理想も輝きを失っている。

 

経済再生と構造改革臭のキツイ今回の骨太の方針とは、全く相容れない内容であり、両者を同じ箱に詰め込もうとすれば、必ずや経済再生の方に傷み生じるだろう。

経済再生は国民のホンネをくすぐって表面化させるのに多大な労力を伴うが、構造改革的な主張は世に溢れるタテマエを適当に吹聴していればバカマスコミが勝手に電波や誌面で拡散してくれるため一気に伝播しやすいものだ。

 

このまま、大企業が集中する首都圏や海外(+海外に進出する大手企業)ばかりに冨が流出し、地域や地方経済が置き去りにされてしまうような「逆ドーナツ現象」を放置していては、日本のデフレはますます深刻化するだろう。

世界各国の事例を検証しても、財政政策を疎かにした国に成長という果実はもたらされないことは明白だ。(下図を参照)

いまこそ、国民はデフレマインドに染まり切った周回遅れの構造改革的思考から脱却して、第二の矢の重要性を再認識すべきだろう。


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