うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

イスが足りない

先日、といってもちょっと前になるがNHKクローズアップ現代IMFのラガルド専務理事が出演していた。

司会者から「日本の経済回復への切り札は」と問われた彼女は、すかさず「女性を活用することだ」と応じていた。

くしくも、総裁選の前後(時期は忘れた)TV朝日のインタビューを受けていた自民党の石破幹事長も、同じような質問を受け、やはり、女性の活用が鍵になると答えていたことを思い出した。

番組は、女性の社会進出は進んでいるが企業内で幹部に登用される割合が低すぎる、また、行政に放置された待機児童の問題が女性の就業を妨げているといったお決まりのコースで進められ、何の生産性もない内容だった。

このようなケースに限らず“女性が働く環境の整備”という言葉は、構造改革財政再建・技術革新・貿易自由化・グローバル化・市場原理などの怪しげな教義とともに、経済回復向けのセットメニューとしてTVに頻繁に登場する。

だが、男社会と揶揄される労働現場にも女性の進出は確実に進んでいる。

総務省労働力調査によると、雇用者数のうち女性の数は、S60/1,548万人(総数;4,313万人)H2/1,834万人(4,835万人)H7/2,048万人(5,263万人)H12/2,140万人(5,356万人)H17/2,229万人(5,393万人)H22/2,329万人(5,462万人)と順調に増えており、雇用者数全体に占める割合も同35.9%→37.9%→38.9%→40.0%→41.3%→42.6%とこちらも増加の一途を辿っている。

しかし、その間に経済規模は十分に拡大したとは言えない。

日本の名目GDPS60/330兆円→H22/481兆円へと約1.4倍に成長してはいるものの、25年という長期的スパンの成長率としては非常に低レベルなパフォーマンスに止まっている。

なぜなら、各国とも猛烈な勢いで名目GDPの規模を拡大させてきたからだ。ちなみに、同じ期間における他国の名目GDPの伸びは、アメリカ3.4倍、ドイツ2.6倍、フランス2.6倍、韓国13.6倍など日本とは比較にならないペースで規模を拡大させている。

バブルの崩壊に見舞われたとは言え、日本だけが異様な低成長に甘んじてきたと言えよう。せめて欧米並みの成長率を維持しておれば、いまごろ日本の名目GDP9001,000兆円くらいになっていてもおかしくはないのだが、現実にはその半分程度にしか届いていない。しかも、H3頃からはその伸びもほとんど止まってしまっている。

このように成長の歩みを止められた経済状態とは関係なく女性の社会進出が進み、上記のように女性雇用者数は右肩上がりで増えてきた。

S60から約780万人(H2から約490万人)もの女性雇用者数が増えたのに応じるだけの十分な経済成長を実現できなかったツケは、完全失業率の増加(S60/2.6%、女2.7%→H22/5.4%、女4.6)という形で我々にはね返っている。

イスの数が増えない(減る)中でイス取りゲームに参加しようとするプレイヤーが増えた結果と言える。しかも、座るべきイスもガタがくる一方で、雇用形態に占める非正規職員などの割合もH14/女性49.3%・男性15.0%→H22/女性53.8%・男性18.9%と男女とも悪化している。

“女性の社会進出”などと粋がったところで、所詮は限られたパイの奪い合いを強いられるだけで、安価で代えの利く都合のよい労働力として利用されているのが実態だ。

厚生労働省の資料によれば、H22時点で全国の待機児童数は約2.6万人とされる。

それだけ働く意欲を持つ女性が控えているという証でもあるが、現状のような厳しい経済環境では雇用できるパイの大きさは縮小する一方であり、これらの待機児童が解消(=働く女性が増加)されるということは、その分だけリストラが加速し自宅待機を余儀なくされる失業者が増えるということを意味する。(待機する者が児童から失業者に置き換わるだけ…)

デフレ不況下において、経済問題解決のヒントをサプライサイドに求めようとする愚者は、いつもこの手の失敗を犯す。

彼らは、よい働き手やよい製品、よいアイディアこそが現状を変えてくれると信じて疑わない。

だが、魚のいない釣堀で、いくら釣りの名手が粘っても何の釣果も得られるはずがない。エサと時間を無駄にするだけだ。

冒頭の女性の社会進出の問題とて同じこと。女性の就業が増える裏側で男性の失業が増えたり、男女間の雇用競争により所得や雇用形態が悪化したりしては元も子もない。

国家全体を俯瞰して雇用や経済パフォーマンスを総体的に伸ばしていくという当然の舵取りが、近視眼のサプライサイダー教徒にはどうしても理解できないようだ。