うずらのブログ

積極的な財政金融政策による豊かで成長力に満ちた社会を目指します

自称グローバル企業のワガママが国を弱体化させる

 前回に続いて、経済産業省「産業構造ビジョン2010」に関連したコメントを書こうと思う。なぜなら、この提言の中に脈々と流れる思想こそ、いかがわしい新自由主義そのものだからだ。

 当ビジョンの大まかな骨子次のとおり。

①日本の産業構造に重大な欠陥があり、経済や産業は深刻なレベルに落ち込んでいる。

②所得の伸びは期待できない。国内市場も停滞気味。少子高齢化が進み人材レベルが低迷。開業率も伸びない。

③先進国市場が伸び悩む一方で、新興国市場の拡大に期待。

⑤国内メーカーは国内市場での競争激化により収益力が低い。韓国企業を見習い企業再編を行え。ついでに、海外市場に打って出ろ。日本のGDPの海外依存度は低く、まだ開拓の余地はある。

⑥競争力のある国内メーカーの海外移転が進んでいる。法人税を引き下げてグローバル企業を呼び込め。港湾整備やオープンスカイを進めて物流インフラを強化すべし。

⑦国内メーカーは垂直統合モデルに固執し技術のブラックボックス化が遅れている。インテルのように世界標準を獲得できるビジネスモデルを見習うべし。

⑧自動車や電機頼みの産業構造を転換すべし。①インフラ関連②環境・エネルギー③医療・健康・介護・子育て④文化産業⑤先端分野を強化し140兆円以上の市場創出、257万人の雇用創出を目指す というもの

 正直、特に目新しい提言ではなく、日経新聞(+日経ビジネス)やダイヤモンド、エコノミスト、プレジデントなどなど“上から目線系”の新聞や雑誌で散々使われてきたキーワードを焼き直したものにすぎない。

 自動車・電機以外の産業を戦略的に伸ばしていこうとする部分に異論はない。問題なのは、①そこに公的な資金を投入(財政支出)しようとする提言がないこと②成長産業のみに国内経済の牽引を期待するトリクルダウン的(雁行型)な発想であること③国内市場の成長を諦めた海外市場頼みの焼き畑農業的な発想であること④よいもの・売れる仕組みさえあれば大丈夫という需要サイドを無視した中小企業の技術屋社長みたいな幼稚な発想であること という点にある。

 港湾などの物流インフラ強化(当然財政支出を伴うものだろう)を掲げるのはよいとして、残りは、お得意の規制緩和や政官民(産学官)連携、公的機関の投融資などいわゆるソフト支援に逃げている。日本のここがダメだ、あそこを糺せと大所高所から言いたいことを言うだけで、支援の枠組みだけは作ったから、あとは民間でよろしくねというホンネが見え隠れしている。モノを作ったこともない省庁やマスコミの連中に指摘されるまでもなく、現状の課題認識などメーカーサイドではとっくに承知している。判っていても技術革新と需要の伸びとのスピードの間に差異があるために苦しんでいるだけなのだ。

 海外市場の開拓、特に新興国相手の市場開拓には大きなリスクが付きまとう。市場時代は成長していても個々の購買力が低いから、収益性の低い製品を投入せざるを得ないし、法制度やその運用のあいまいさに加えて政情の不安定さもあり需要の予測が難しい。そもそも需要家となる海外諸国の所得の増減を日本サイドでコントロールできない以上、常に不安定さが付きまとう。

 海外諸国への資本投資は諸外国に任せ、日本はその成長の果実を得る戦略が大切だ。つまり、新興国にエサや肥料を与える役目(当該諸国の所得増加)は欧米や中国に任せ、日本は成長した果実を賞味する(付加価値の高いものを売りつける)ことに徹しろということ。いまの国内メーカーが中国やベトナムなどにせっせと資本投下しているのをのほほんと見逃してはならない。

 産業構造ビジョン2010では国内市場は成長しないものと決め付けて、やたらと海外市場の開拓を煽るが、輸出依存度が高まるほど、経常黒字の増加による円高圧力に悩まされることは自明であり、国内市場の成長(内需拡大)とのバランス調整が欠かせない。輸出を拡大するなとは言わない。それはそれで日本の成長の源泉のひとつであることは疑いない。ただし、重要なことは、内需あっての輸出であることを忘れてはならないということだ。内需が成長しないことには、多くの企業が売上を減らし、多くの国民が所得低下や就業機会の喪失に見舞われる。これは人心の荒廃をもたらし国力の低下に直結する。マスコミが成長モデルとして持ち上げる“韓国”がいい例だ。今回の提言でも、韓国は財閥企業の過剰な多角化を是正して産業を大集約し収益力の高い企業を生み出したと手放しで褒めちぎっているが、これは大企業による市場独占を認めろということと同意義で、韓国企業の収益力が高いのは、単に財閥企業の市場支配が進んでいる(企業形態としては後退している)のと、従業員への人件費を過度に抑え込んでいるだけだろう。日頃は、独占禁止法を振りかざす公正取引委員会を持ち上げるくせに、こんな提言をするとは、どういう風の吹き回しか。

 日本国内企業の収益が低いのは無駄な競争を強いられているだけだから、カルテルを一定程度認めてあげればよい。また、国内需要回復や就業機会増加のため、国内企業の自分勝手な海外進出を規制すべきだ。

 一部の輸出企業に富が集中するといういびつな状態の韓国では、当然国内の需要は停滞し雇用状況も厳しい。公式ベースで3%台の失業率も実態は12-13%と言われ、特に若者の就職事情は日本以上に過酷なものと聞く。大ヒットした韓国映画の「漢江の怪物」でも漢江に現れた怪物との死闘を描く一方で、主人公の親兄姉達が直面する厳しい韓国の就職事情が皮肉交じりに描かれている。

 国内市場が伸びず就職事情も厳しい(おまけに兵役まである)ために、韓国の若者、特にスポーツ選手の海外流出が増える。プロゴルフやアイススケート、サッカー、野球など各分野で活躍する韓国選手は数多い。日本では羨望を含めて彼らを褒め称える一方で、日本の若者はだらしないと自らを省みずに批判する。だが、それは本当に正しいことだろうか。彼らは国内に活躍の場がない(=カネを出してくれる市場がない)から、海外に行かざるを得ないだけで、グローバルに活躍するといえば聞こえはよいが、単純に言えば母国が貧乏だからという事実の裏返しなのだ。

 せっかく、国内で優秀な人材を育てても、彼らに与える報酬を出す力がなければ、海外に流出してしまい何の利益にもならない。学力試験でトップクラスの秋田県のこども達が、県内に有力な大学も就職口もないために東京に出て行かざるを得ないのと同じことだ。日本では、それを世界に羽ばたく的な評価をするが、単に成長させた果実を横取りされたということだろう。

 この産業構造ビジョン2010は、サプライサイド成長の幻想に囚われ、企業のワガママを看過するもので、いかにも“口だけ省庁”の経済産業省が考えそうな寝言といえる。